モイネロが7回2死まで無安打投球…野手の援護で「気持ち良く投げられた」
良い意味で意識の違いを感じる1試合だった。ソフトバンクは30日、楽天戦(楽天モバイルパーク)に10-1で大勝した。先発のマウンドに上がり、試合を作ったのがリバン・モイネロ投手だった。モイネロは7回2死まで無安打投球。小久保裕紀監督も「ノーヒットノーランすると思ったけど、そんな甘くないですね」と話すように、大記録を予感させたが、7回1安打1失点の投球で7勝目を掴んだ。
モイネロは初回の先頭打者を失策で出塁させるも、次打者をダブルプレーに打ち取った。気づけば6回終了時点で楽天打線は無安打。7回2死二塁から4番の浅村に初ヒットを許したが、この試合でモイネロが打たれた唯一の安打だった。「早い回から野手の皆さんが援護してくれたおかげで、気持ち良く投げることができました」と、まさに投球から試合のリズムを作り上げるような内容だった。
アウトを重ねるごとに、重圧が大きくなっていく無安打無得点という偉業。惜しくも逃しはしたが、甲斐拓也捕手と今宮健太内野手の考えは“真逆”だった。モイネロは今季17試合に登板して7勝3敗、防御率1.55。全ての試合で先発マスクを託されて、バッテリーを組んでいるのが甲斐だ。試合が終盤に進むにつれ、どんな心境を抱いてマスク越しに戦況を見守っていたのか。
「全然です、どうでもいいです」
いい投球を引き出すことを考えていた? と問うと「それだけです」と即答だった。勝利という結果において、最大の評価を得ることができる捕手というポジション。大記録を優先するのではなく、チームの勝利だけを考えているからこその「どうでもいい」という言葉だった。
一方で今宮は「僕らも(無安打無得点を)意識はしていました、確かに。常にしっかりと守っていこうとは思っているんですけど」という。7回1死一塁では辰己が放った打球を好捕。最後は倒れ込みながら、ノーヒットを継続させた。自分のプレーを振り返っても「モイネロのテンポじゃないですか。やっぱりいいテンポになってくると、守備も自然といいプレーが出たりとかするので、そこはあると思います」と語る。左腕の投球に、引っ張られるようにして生まれたスーパープレーだった。
今季から先発に転向し、ローテーションの柱として活躍している。中継ぎ時代と投球を比較すると、今宮は「全然違いますけど、先発になってもテンポが早いですよね。すごくいいんで、守りやすいです」と言う。遊撃から見守ったこの日の楽天戦の内容についても「三振を多く取るというよりは、しっかりと打たせていくっていう感じには見えるんで、なおさらそこはしっかり守ってあげないとって思います。コントロールもいいですよ、すごいなと思いますよ」と、とにかく絶賛だった。
近年、ホークスのノーヒットノーランは3度。2019年9月6日のロッテ戦で千賀滉大投手が達成。2022年5月11日の西武戦で東浜巨投手、2023年8月18日の同戦で石川柊太投手という3度だ。甲斐は3試合ともゲームセットまでマスクを被っており、今宮も先発出場していた。重圧と緊張感、そして喜びも知っているからこそ、2人の考えが“真逆”だったことも頷ける。
甲斐の「どうでもいい」という言葉のニュアンスについて、高谷裕亮バッテリーコーチは「もちろんです」と即答で同調する。「まずは試合をしっかり作ること。ノーヒットノーランとかっていう記録は後からついてくるものですから。8回、9回となったら意識はするでしょうけど、試合を作ること、チームが勝つことが第一です」と、捕手ならではの目線を続けた。今宮は意識していたことを伝えると「野手はそうかもしれないですよね」と笑顔で頷く。試合中に考えることも人それぞれで、さまざまな意味でも興味深い一戦だった。
最後に今宮は「一瞬(達成も)あるかなとは思ったんですけどね、その後にすぐやられましたね」と苦笑いしながら、球場を後にしていた。十人十色の思いを抱いて、選手はグラウンドに立っている。今度はモイネロと一緒に大記録を叶えられるように、攻守でピッチャーを助けていく。
(飯田航平 / Kohei Iida)