サヨナラ勝ちをおぜん立て…リチャードが明かした爆笑の舞台裏
劇的な幕切れに喜びを爆発させるホークスナインの輪の中で、殊勲の選手会長を子どものように抱き上げた。「怪我しないように、優しく。軽かったっす。足が速そうな人の軽さでした」。サヨナラ犠飛を放った周東佑京内野手の元へ真っ先に近寄り、ハグしたのがリチャード内野手だった。
7日の西武戦(みずほPayPayドーム)はこれ以上ない勝ち方だった。延長12回無死満塁で代打の周東が犠飛を放ち、今季4度目のサヨナラ勝利を飾った。歓喜の直前、チャンスを拡大したのは無死一、二塁から中前打を放ったリチャード。小久保裕紀監督も「リチャードにはバントをさせるつもりはなかったんで。『いってみろ』という感じだったんですけど。よくつなぎましたよね、あそこでね」と高く評価した。
未来の大砲候補として早くから注目を集めていたものの、なかなか殻を破ることができずにいる7年目の大型内野手。今季は開幕を2軍で迎えたものの、4月30日に1軍昇格を果たした。長年自主トレをともにしてきた山川穂高内野手がチームに加わった今季、これまでと一味違った空気をまとっている。サヨナラ勝ちの余韻が冷めやらぬ7日の試合後、口にしたのは指揮官への思いや、師と仰ぐ山川とのほほえましいやり取りだった。
「監督かっけーなって。めっちゃかっこよかったっすね。ベンチをちらっと見たら、監督が立ってたんで。平然と立ってましたね。かっこよかったです。1人で感動しながら打席に行ったっす」。リチャードが目を輝かせながら振り返ったのは延長12回無死一、二塁で迎えた打席だった。
前打者の野村勇内野手が無死二塁で申告敬遠された。「あの瞬間は代打(を送られる)か、(自分が)バントするか……。で、サインをめっちゃじっくり見て。まず代打じゃないことに正直驚いた」という。ベンチで微動だにせず、この場面を任せてくれた指揮官の姿に覚悟を決めた。「本当にゲッツーだけはだめと思って。ゲッツーなら三振でいいやと」。相手投手のスライダーにバットを折られながらも、執念で中前に打球を運んだ。
今季一新された1軍首脳陣。小久保監督を始め、昨季2軍でともに時間を過ごした顔ぶればかりだ。「サードを守っていて、ベンチからの指示を見る時とかに(目に)映る監督の姿とか、本多(雄一内野守備走塁兼作戦)コーチとか。(昨年と)おんなじ感じで練習できているというか、別に1軍だから練習量を落とすとかもなく、いつも通りというか。そういうのもあるのかなと思いますね」。1軍の舞台に舞い上がっていた過去の姿はない。
長年自主トレを共にしてきた師匠の加入も大きいようだ。山川が本塁打を放った4回にはこんなやりとりがあったという。「最初(初回)にツーベースを打った時に『どうやって打ったの』って聞かれたんで。『チェンジアップが遅かったのでライトポールに(目掛けて)打ちました』って言ったら、本当に右側に(本塁打を)打ったんで。山川さんに『まじでライトポールいったっすか』って聞いたら『お前のバッティング参考にするわけねえだろ』って(笑)。何だよって。自分の技術で打ってました」。
山川からの愛あるイジリはほかにもあった。打席に入る際、人気映画「トイ・ストーリー」で使われた曲を使用しているが、「山川さんにこれにしろよって言われて。「1人でトイ・ストーリできるやろ、お前』みたいな。『1人でトイ・ストーリーできる顔やろ』って」と笑いながら舞台裏を明かした。
冒頭の周東を抱き上げたシーンについては「ガチでナイスと思いました。うれしかったです」と満面の笑みを浮かべた24歳。これまでも天真爛漫なキャラでファンに愛される存在だったが、実力的にも次世代スターとなりうる雰囲気が漂いつつある。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)