5日に行われた和田毅の引退会見…周東佑京が黄色いバラの花束を贈呈
青いバラは「夢が叶う、奇跡」、黄色いバラは「友情」が花言葉とされる。最後の晴れ舞台を彩るために、盟友まで駆けつけてくれた。
ソフトバンクは5日、和田毅投手が現役を引退することを発表した。記者会見が終わったタイミングで登場したのは周東佑京内野手。手にしていたのは、黄色いバラの花束だった。その後に続いた7選手も、1輪ずつ青いバラを和田に手渡していった。花の手配をしたのが、ホークスのOBでもある猪本健太郎さんだった。
熊本出身の猪本さんは、2008年育成ドラフト4位でホークスに入団。2013年11月に甲斐拓也捕手と同じタイミングで支配下選手登録された。2017年に現役を引退。その後はホークスで長年、ブルペン捕手を務めてきた。昨オフに退団すると、今年の9月1日から福岡市内に「FLOWER STUDIO S(フラワースタジオ・エス)」という花屋をオープン。第2の人生を歩み始めた。
「(転身したのは)嫁の実家が花屋だからです。僕の実家は魚屋なんですけど、お花の方がこういうタイミングでもマッチしやすいかなと思いました。僕のじいちゃんも、花屋だったので、縁はありましたね。ここでトライしてみようかな、と。みんなに喜べる仕事って、やっぱりいいじゃないですか」
はじめは、種類を覚えるところから始まった。購入した何冊もの図鑑を並べ、見比べながら外見、名前、特徴を徹底的に頭に入れた。「球種よりも多いんで、なかなか難しかったですよ……。季節によっても違いますから」と苦労の日々を振り返る。お金や経営に関する勉強も重ねて、夢だった花屋に向かって、一歩ずつ進んだ。「コーヒーも出していますから、飲みに来てくれる人もいますし。それこそ和田さんは、オープンの日に来てくれました」と、多くの人の支えも実感している。柳田悠岐外野手や又吉克樹投手も来店した。
5日の午前10時に和田の現役引退が発表された。ニュースを通じて猪本さんの耳にも届き「泣きそうでした」という。すぐさま“仕事モード”になって涙が引っ込んだのは、球団スタッフから花の手配をお願いされたからだ。納得がいくものを作るために、久留米にまで車を走らせて、花を揃えた。「ドタバタでしたけどね。和田さんの引退ですから、血眼になって頑張りました」。周東が持っていた花束も、包みながら「もう泣きながら、でしたよ」――。
自分自身の新しい道で、和田の引退会見を彩ることができた。「僕の励みにもなりますし、こういう形から応援をさせていただくのはありがたいことです。頑張ろうと思えました」と当然、感慨深かった。22年間の現役生活を終えた偉大な先輩。「お疲れ様の一言ですよ。背中で語るタイプですよね。僕はスタッフになってからの方が関わりが深くなりました。ゆっくりされるのかわからないですけど、またゴルフでも行きたいですね」と優しく笑う。
猪本さんの若手時代。ウエスタン・リーグの開幕戦で、調整登板でマウンドに立った和田とバッテリーを組んだことがあるという。「僕が20歳の頃なんですけど、やっぱりその時の思い出が残っていますね。覚えていないくらい緊張していましたけれど」。育成だった後輩のサインにも、首を振らずに投げてくれた。降板した後にはベンチで「打たれたのは、こういうことが理由だよ」と、丁寧にアドバイスをくれた。第一線で戦うエースの貴重な意見。必死に耳を傾けたことは、今も忘れられない。
「人として学ばせてもらうことが多かったです。まだまだやれるとみんな思っているのに……。和田さんのすごいところは、年齢を重ねても進化しているところですよね」
柳田や、ホークスのOBでもある千賀滉大投手、福田秀平さんからも花束が届いていた。猪本さんが包んだ大きな花束だった。和田毅というプロ野球選手を、こう表現する。「カッケぇっすよ。男っす」。日米通算165勝。ファンの気持ちを彩り、咲き誇った野球人生だった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)