涙を「こらえられない」 泣きそうだった瞬間…自らリスペクトする“和田毅の娘”

引退セレモニーでスピーチする和田毅【写真:冨田成美】
引退セレモニーでスピーチする和田毅【写真:冨田成美】

昨年11月に現役を引退…セレモニーで涙腺に「きました」

 涙は見せなかった。必死にこらえた瞬間が、2度あった。ソフトバンクは15日、日本ハムとのオープン戦(みずほPayPayドーム)に4-2で勝利した。昨年限りでユニホームを脱いだ和田毅投手の「引退記念試合」として行われた一戦。左腕が“泣きそう”になったのは、どんな瞬間だったのか。2人の存在に、胸を打たれた。

 日米通算355試合に登板し、165勝。2002年ドラフトの自由獲得枠で、当時ダイエーに入団した。22年間の現役生活を終えることになったが「優勝争いをしている中で“和田さんのために”となるのは違う」と、昨秋時点での引退試合を固辞。年をまたいで、オープン戦で記念すべきマウンドにあがることになった。1番打者の清宮に対して、投じたのは4球。最後は134キロ直球で空振り三振とし、万雷の拍手を浴びながら最後の登板を終えた。

 ゲームセット後、セレモニーが行われた。22年間を振り返る映像が流れ、王貞治会長らから花束の贈呈。そして、和田本人が言葉を発する時が来た。「引退して4か月。また投げたくなるのかなと思ったんですけど、ありがたいことに全くなりませんでした。本当にやりきったんだなと」。アマチュア時代、家族の存在、ファンへの感謝……。スピーチは13分間にも及んだ。一連の流れで、「(涙腺に)きました」という瞬間を明かした。

 1度目は、野村徹さんからのビデオレターが流れた時。早大時代の監督は和田を「最後の教え子の1人」と表現し「一言、本当にご苦労さまでした」とメッセージを送った。和田いわく「今日はちょうど、お孫さんの結婚式で来られなくなってしまいました。また自分から会いに行きたいです」という。今も胸に刻まれているほど、濃密な青春を過ごしたから、感情が込み上げてきた。

「野村監督の時、一番きましたね。(大学時代は)プロ野球選手にはなれないかなと。4年間で自分はプロになれたし、その時の監督ですから。技術ももちろんですけど、心というか。嘘偽りのない気持ちをぶつけてくれる監督だったので、すごく思い入れがあります。僕が卒業してOBになってからも、何度も連絡を取ってきました」

 今年の1月1日に88歳、「米寿」を迎えた恩師。体調がすぐれないという近況も、和田は当然知っていた。「体はキツいと思うんです……」。誰よりもランニングを重ねて、今も東京六大学の記録となっている通算476奪三振を積み上げた。プロ1年目から14勝を挙げられるほど、自分を成長させてくれた人だから、今も感謝は尽きない。

「自分は5月に早慶戦の始球式があるんですけど、野村監督も『絶対に俺もいくから。そこで会おう』と、そういう話もしているので。ビデオレターがあることは、予想はしていたんですけど、見た瞬間はこらえられなかったです。僕の同級生がスタンドにいたので、みんな同じ気持ちだったと思います。僕の大学の同期で、あれを平常心で見られる人はいないと思います」

愛娘から花束を受け取る和田毅【写真:冨田成美】
愛娘から花束を受け取る和田毅【写真:冨田成美】

 2度目は、愛娘から花束を受け取った時だ。スピーチ中も「一番の応援団として常に応援してくれたこと、本当に感謝しています。優しくて、忍耐強くて、相手を思いやれる、素敵な女性になってくれました。本当にありがとう」と感謝を伝えた。2005年に結婚をしてから、プロ野球選手として、父親として背中を見せてきた。“和田毅の娘”でいてくれることには、家族だからこそリスペクトを伝えたい。

「物心ついた時から、『パパはプロ野球選手』で、それが当たり前の環境で育ってしまった。1年でも、半分以上は(家に)いないので。周りがお父さんお母さんと過ごしているのは何回も見ているだろうし、妻も娘と2人で……って時が何回もあったと思う。でもそんなことはね、一切自分に言ってきたことはなかった。妻から言われたことはありますけどね。強い女性に育ったなと、妻の教育のおかげだと感謝しています」

 2月21日は和田の誕生日だが当然、春季キャンプ中。1軍でシーズンを戦っていれば、遠征に出ることも日常だ。「寂しい思いをさせているのは、自分でもわかっていたので。さすがにそこはグッときました」。思わず見上げるようなシーンもあったが「向かないと(涙が)垂れちゃうので」と、感情をこらえている時だった。「今までできなかったことを一緒にできたら。これからもよろしくお願いします」と愛妻にも伝えた。これからは1人の父親としても、第2の人生を歩む。

 昨年11月の引退会見でも、涙は見せなかった。「そういう(泣かないようにしていた)わけではないですけど、一回そうなると止まらなくなってしまうので」。悔しさも感動も、22年間でたくさん味わってきた。和田毅には、やっぱり笑顔がよく似合う。

(竹村岳 / Gaku Takemura)