上沢がヘルナンデスにとった行動
異国での孤独を理解しているからこその行動だった。「また同じようなシチュエーションが来たら頼むね」。移籍後初勝利は消えたが、上沢直之投手はベンチに戻ってきた助っ人に歩み寄った。
3月30日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)の出来事だ。6回まで1失点に抑えていた上沢は4-1の7回2死一、三塁のピンチでマウンドを降りた。走者を残しながらも移籍後初勝利の権利。しかし、2番手で登板したダーウィンゾン・ヘルナンデス投手が連打を浴び同点に追いつかれた。
直後、先に声をかけたのは上沢だった。「信頼しているから」――。ヘルナンデスにもその思いは伝わっていた。
「彼らも異国から来て、なかなか母国語を話す日本人なんかいないですし、そういう中で頑張っているので。そういう会話はやっぱり僕からしたほうが、彼らも会話してもらったほうが気持ちは落ち着くかもしれないし。僕もそういう経験があったので。なるべく自分から通訳の人に話しかけるようにしたいなとは思っています」
上沢自身も昨季は米国でプレー。レッドソックスで5月に2登板を果たしたが、その後はマイナー暮らしだった。練習ではブルペン捕手がおらず、投げ込みたくても相手がいないことも。慣れない環境で感じた不便さや孤独。理解しているから、助っ人たちには同じような思いを少しでもなくしたかった。
「日本に来た時から…」示していた“敬意”
ヘルナンデスにも上沢らの気遣いは伝わっていた。「個人的なことなので話の内容は言えないですけど……」としつつ、「チームメートもみんな本当に良くしてくれますし、コミュニケーションを取ることができるのもすごく良いです。自分は日本に来た時から皆には尊敬の念を抱いていました。その敬意が今いろいろな形で自分に返ってきているのかなと思います」と感謝する。
1、2日のエスコンフィールドで行われた日本ハム戦には登板機会はなかったが、ヘルナンデスは切り替えている。「またチャンスが来た時にしっかりと投球できるようにしたい。準備の面でも今年はすごい良い状態だと思っています」と自信をのぞかせる。
チームはここまで1勝5敗と開幕から厳しい戦いが続いている。負けている時こそ、チームの結束は不可欠。日米を経験した上沢だからこそわかる、粋な行動だった。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)