真砂さんが忘れぬロッカーでの一言
37歳を迎えても背中でチームを引っ張っている。首位打者2回、最多安打1回と数多くのタイトルを獲得するなど、長年ホークスを支えてきた柳田悠岐外野手は、若手や後輩にとっても頼もしい存在になっている。2022年にホークスを退団し、昨年現役を引退した真砂勇介さんも、柳田に感謝している1人だ。
「右の柳田」、略して“ミギータ”の愛称で親しまれた真砂さんは、2017年から2022年まで柳田の自主トレに参加した。交流のきっかけは藤本博史元監督の一言だった。「憧れはありましたね」。そう語る真砂さんは、柳田からふと言われた言葉が、今でも忘れられないという。
「辞める前だったので2022年か2023年だったかな……」。真砂さんが1軍に同行していた時だった。チームは負けが続き、雰囲気も良くない状況。落ち込んでいた時にふと柳田が声をかけた。「『チームのことは考えんでいい。自分のことだけプレーすればいい。チームの勝ち負けは俺らの責任だから。お前は自分だけのプレーに集中しろ』って言ってくれて」。
場面や時期は覚えていないが、ロッカーでのその一言だけは鮮明に頭に残っている。決して何かを相談したわけではなく「自分からしたらチームを勝たせようとしてプレーはしていない」。一方で、「自分がミスしたことでチームに迷惑をかけていると考えていたので」。心を見透かされたような一言に救われた。
藤本元監督の一言で…柳田自主トレに参加
真砂さんは2012年ドラフト4位でホークスに入団。2016年、当時2軍打撃コーチを務めていた藤本元監督から「ミギータ」の愛称をつけられた。実は、柳田と真砂さんを繋いだのは藤本元監督だったという。
「藤本さんがギータさんに『(自主トレに)連れてってやってくれや』って言ってくれて。ギータさん了承してくれて、そこから行き出すようになったんです。行きたいと思っていたけど、僕からは言えなかった。藤本さんが言ってくれたのがきっかけですね」
2017年のグアム自主トレから参加。当時は柳田の他に、糸井嘉男さんや吉田正尚外野手(現レッドソックス)が参加していた。一番苦しかったのは食事だった。タンパク質を摂取することを徹底し、朝食はゆで卵10個からのスタート。ケチャップなどでの味付けは許されず、塩のみだった。
「昼はサラダとチキン。チキンって言ってもササミだけ。夜は食べに行ったりもするんですけど、衣が出てきたら全部はがして。魚とかがメインでした。米もそんなに食べてないんじゃないですか。きつかったですね。それで午前中にアップで4?5キロくらい走るので。グアムだから気温が37度とかで、吐きそうだった」
トレーニングが苦しいのは理解していたが、食事まで苦しいのは想定外だった。「運動していなかったらそこまで食べなくてもいいですけど、運動して毎日同じご飯だったのはきつかったですね。みんなブーブー言っていました。『これ食べていいですか?』『だめです』『はい』って感じで」。今となっては懐かしい思い出だ。
柳田は今年1月、佐藤直樹、笹川吉康両外野手ら若手に交じって自主トレを行っていた。真砂さんも今年から福岡に戻り、株式会社「オーテック」の社員として働いている。「気を使わなくていいような雰囲気を出してくれるし。やりやすかったですね」。第2の人生を歩んでも、柳田への感謝は変わることはない。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)