石塚に代えて川瀬の“一手”「シーズン序盤なら交代はなかった」
まさにチーム一丸でもぎ取った白星だった。「きょうは本当にチームが今年一番、勝つというところに関しては1つになっていたような感じですね」。今季最長の4連敗で迎えた8日の西武戦(みずほPayPayドーム)。総力戦の末につかんだ会心の勝利に、小久保裕紀監督の表情も安堵に包まれていた。
打線は難敵の西武先発・武内から2回に2点を先制。投手陣は中継ぎ登板から中4日で先発マウンドに上がった松本晴投手が6回途中1失点、8奪三振の力投を見せると、そこから5投手の継投でリードを守り切った。試合終了後のベンチ裏からは、勝利を喜び合うナインの大声が響いていた。それだけ大きな1勝だった。
絶対に負けられないとの思いは首脳陣も同じだった。試合の焦点は2つ。試合中盤の5回に「7番・一塁」で出場した石塚綜一郎捕手をベンチに下げた判断、そしてリスクを覚悟の上でルーキー右腕2人を起用した点だ。今季のターニングポイントとなるであろう一戦で行われた大胆な決断。その背景を探った。
「シーズン序盤であれば、あの場面での交代はなかったかもしれないですね。それほど大きな意味のあった試合だということです」。そう振り返ったのは奈良原浩ヘッドコーチだった。“あの場面”とは5回、死球で出塁した石塚に対し、代走で川瀬晃内野手を送ったシーンだ。
左腕・武内対策として先発オーダーに名を連ねた石塚は、2回1死二、三塁の好機で空振り三振に倒れていた。また、一塁守備でも2回に失策を記録。精彩を欠いたプレーとの見方もできるが、懲罰的な意味での交代ではなかったという。
「まずは走力の問題ですよね。前の回にちょっと嫌な感じがあったので。なんとかチャンスを広げられないかというところですよね」。4回は先頭の山川穂高内野手が左前打で出塁したものの、続く近藤健介外野手が併殺打に倒れて無得点。直後の5回に西武が1点を返し、リードは1点差に縮まっていた。
5回の攻撃は川瀬が代走に送られた後、甲斐拓也捕手が右前打を放ち、川瀬は一気に三塁へ到達。結果的に得点を奪うことはできなかったものの、無死一、三塁の形を作ることができた。代走起用は功を奏したといえる。
川瀬起用の狙いはもう1つあった。「(連敗中は)僅差だったり、逆転された試合が続いていたので。リードした場面で守りを固めていこうと。晃が(一塁の)守備に入ることで、内野も締まりますから」。7月下旬に支配下登録をつかんだ石塚と、9年目の川瀬。守備力はもちろん、経験値でも大きな違いがある。今季開幕から1軍でプレーし、試合終盤の緊迫した展開でも安定した守りを見せてきた川瀬への信頼。それが試合中盤ながら大胆な選手交代に出た最大の理由だった。
前回登板で計5失点の新人2人を投入「チャレンジしていくしかない」
投手起用にも首脳陣の強い覚悟が見られた。1点リードの6回、先発の松本晴が2死一、二塁のピンチを招き、降板。2番手で登板したのがドラフト2位ルーキーの岩井俊介投手だった。右腕は外崎を左飛に打ち取り、見事な火消しに成功。さらに7回のマウンドにはドラフト6位の大山凌投手を送った。前の回に続いて2死一、二塁の形を作られたものの、4番手の長谷川威展投手が源田を空振り三振に切って取り、ここも得点を許さなかった。
岩井、大山ともに4日の日本ハム戦以来のマウンドだった。3点リードの9回に6点を奪われ、痛恨の逆転負けを喫した一戦。2人は相手打線の勢いを止められず、大山は試合後に大粒の涙を流していた。メンタル面に不安を残す中、僅差の展開で送り込んだ首脳陣。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は、リスク覚悟の“ルーキーリレー”を決断した理由を明かした。
「リリーフ陣に関しては、これから新しい形を作らないといけないので。こっちもこういう状況ですから。チャレンジしていくしかないので」。シーズン終盤にクローザーの松本裕樹投手をはじめ、藤井皓哉投手や津森宥紀投手といった勝ちパターンの投手が相次いで離脱する“緊急事態”。だからこそ、2人のルーキー右腕の力は不可欠な存在だ。
「1年目からこういう場面を経験できることはめったにないですし、大きく成長できるチャンスでもある。きょうは岩井がきっちり役目を果たしてくれた。大山はランナー2人を出して降板した悔しさはあるでしょうけど、何とか次に生かしてほしいですね」。優勝に向け、シーズン最終盤に訪れた最大の試練。2人に大きな期待をかけるからこその起用だった。
優勝へのマジックは「13」。4年ぶりの歓喜への道のりはあとわずかだ。選手はもちろん、首脳陣も戦っている。その覚悟が見られた8日のゲームだった。