真夏のグラウンドで若手と流した汗 2軍降格から1か月半…石川柊太が“辞めた”こと

2軍で調整を続けるソフトバンク・石川柊太【写真:上杉あずさ】
2軍で調整を続けるソフトバンク・石川柊太【写真:上杉あずさ】

「どれだけ覚悟があるか、自分の力で戦うか、それに勇気を持てるか」

 2軍降格から1か月半が経った。石川柊太投手は灼熱の筑後で汗を流しながら、自分自身と向き合ってきた。どんな時でも応援してくれるファンのために――。1軍復帰戦となる8日のロッテ戦(ZOZOマリン)を、この期間の鬱憤を晴らす時にする。

 今季の石川は1軍で9試合に登板して2勝2敗、防御率3.26。4試合は先発、5試合は中継ぎと、任された難しい役回りの中で、安定感のある投球をすることが出来ず、6月17日に出場選手登録を抹消された。「本当に自分の実力の結果なんで、そこに関してはもう自分が上手くなって、より良いピッチングをして、実力もつけて、1歩1歩前進していくっていうことだけなんで、変な感情もないです。とにかく、ひたすら頑張ってって感じです」。2軍降格の現実を真っ直ぐに受け止めていた。

 淡々としているように見える石川だが、感情の一喜一憂も「ありますよ」と明かす。そのために本を読むなどして感情の揺れを減らすように努めてきた。

「心理学の本とかを最近読んで、ようやくまた1つ、自分の中での物事の捉え方だったりをしっかり前向きに出来ているので。結局どれだけ覚悟があるか、自分の力で戦うか、それに勇気を持てるか、みたいな。どうしても保険かけちゃったり、言い訳しちゃうじゃないですか。そういうのが積もって弱いところになってくるんで」

「悲観的にならないようにとか、後先考えないようにしてはいますね。『このままだと、こうだな』と想像したりとか、そういうのは必要ないかなって思います。ただひたすら今の状態を良くする、というか上手くなることに集中しているっていうのが今、1番やっていることですね」

 先のことを考えて、不安になることはもう辞めた。目の前のことに、ただひたむきに取り組むことだけを大切に、日々を送ってきた。1か月半の日々を語る石川の口調には覚悟が滲む。

「応援してくれる人たちが自分の戦いを見て、ただ漠然と勇気をもらったり、そういう人たちに勇気、元気を与えれることだけを考えてやっているので。結果が出て『よくやった』って言われて、それで充実感を得たり、ダメなときに『ダメだったな』って言われて反省して、それをエネルギーに変えるとか、そういうエネルギーの向け方をやめています。結果に対して褒めたり『良かった』と言ってくれるのは見ている人の話で、自分は関係ない。自分はひたむきに足元見つめて調子を上げていく、その姿を見せるだけなんで、そこだけに集中してやってます」

 育成選手として入団してから支配下登録、開幕投手、最多勝、ノーヒットノーラン達成、と、プロ生活では酸いも甘いも経験してきたからこそ、感じることも多い。だからこそ、どんな時でも変わらずに応援し、支えてくれる人たちの存在が石川にとって原動力になる。

「野球の世界って独特なんで一概にそれが通用するとも思わないんで難しいですけど……。ただ、自分が野球選手である以上、どうしていきたいのかっていうと、やっぱりそういう姿を見てもらって、というところが自分の中では1番しっくりくる。活躍してるから喜んでくれるファンもいますし、そういうファンも大事ですけど、自分の中ではどんな時でも応援してくれるファンのために、ひたすら戦っていく姿を見せていきたいなって」

 2軍降格を言い渡されてから1か月半ほど。真夏のグラウンドで若手に混ざって32歳も汗を流してきた。「いい時間は過ごせているんじゃないですか。過ごせているというか、いい時間にしないと。あの時間は無駄だったなって思いたくないじゃないですか。そういう時間に今したいし、していきたい。言い訳せず、覚悟を持って戦うっていうところに今、集中しています」。ファームで日々を送る中で抱いた石川の決心だった。

 7月26日に行われたウエスタン・リーグのくふうハヤテ戦は6回1安打無失点と好投した。8月2日の同・広島戦でも3回2安打無失点、三振も5つ奪い、8日の先発復帰が決まった。2軍降格当初は、次いつ1軍に戻れるのか、どうなるのか分からない不安な思いもあり「後先考えていたら不安しかない」とも溢す。先のことを案じるのではなく、とにかく真っ直ぐに“今”と向き合ってきた石川が、帰ってきた1軍の舞台で見せる姿を楽しみにしたい。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)