「お兄ちゃんには勝てない」 慶応3兄弟の2024年…3人の思い出、悔しかった5月28日

ソフトバンク・廣瀬隆太、正木智也、柳町達(左から)【写真:球団提供】
ソフトバンク・廣瀬隆太、正木智也、柳町達(左から)【写真:球団提供】

“長男”の柳町達は2度のサヨナラ打など優勝に貢献…「火をつけてくれた」存在

 ホークスがたどり着いた4年ぶりのリーグ優勝の裏には、選手たちの様々な思いがドラマがあります。鷹フルでは、主力選手だけではなく、若手からベテランまで選手1人1人にもスポットを当てて、ここまでの戦いを振り返っていきます。今回焦点を当てるのは、柳町達外野手、正木智也外野手、廣瀬隆太内野手の「慶応3兄弟」。「一番頑張ったのは廣瀬じゃないですかね」。“長男”の柳町が、そう語る理由は? 正木が悔しくて忘れられない1日とは? 三者三様の2024年を、独自の視点で振り返っていきます。

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 3人が揃うからこそ、意味があった。一番刺激をくれた存在だった。柳町、正木、廣瀬の“慶応3兄弟”が誕生した今季。チームはリーグ優勝を成し遂げた。柳町は「一番頑張ったのは廣瀬じゃないですかね」と偽りのない思いを語る。2人の“弟”と戦ったシーズンを、どう思うのか。

 誕生日は、柳町が1997年4月20日、正木が1999年11月5日、廣瀬が2001年4月7日。2学年ずつ離れている。慶応高、慶大とたどった経歴も全く同じで、生粋の“慶応ボーイ”たちだ。昨年のドラフト会議で廣瀬が3位指名を受け、支配下の野手に同門が3人も揃うことになった。1年目の“末っ子”は「先輩2人のおかげで、こうやっていろいろファンの皆さんに名前を覚えてもらえたと思うので、そこは嬉しいです」と話す。

 柳町と廣瀬は5月28日、同じタイミングで1軍に呼ばれた。6月21日に正木も昇格し、3人が1軍の舞台に揃った。それぞれがチームの勝利と、リーグ優勝に貢献したのは間違いないが、「一番頑張ったのは廣瀬」と言う理由を“長男”が明かす。

「本当に僕を引っ張ってくれたというか、まだまだ頑張るという気持ちにさせてくれたのは2人の存在があったからこそです。ずっと、長男と言われていますけど。2人に負けないようにとの思いでやってきているので、先輩としてカッコ悪いところは見せたくないと思っていますから。2人がいるから今、頑張れていると思います」

 柳町はプロ5年目の今季、69試合に出場して打率.263、4本塁打、37打点。年長者としても、後輩に負けたくない思いが自分を成長させてくれた。8月4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)では、1点を追う9回無死満塁で正木が同点犠飛を放ち、続く柳町のサヨナラ打で試合を決めた。「慶大」の名がフォーカスされた一戦でもあった。「やっぱり達さんは何かをやってくれる。“お兄ちゃん”には勝てないですね」と、犠飛を放った“次男”は笑って振り返っていた。リスペクトで成り立つ関係性の中でも、下からの「突き上げ」を感じていたから、突き進むことができた。

 正木はどう見ていたのか。今季74試合に出場して打率.266、6本塁打、26打点。兄と末っ子に挟まれた次男の立ち位置を「居心地がいいっていうか。達さんはすごく面倒見がいいですし、廣瀬もちょっと生意気で弟感があって可愛いです。2人がいて、すごく居心地よくやれていますね」と表情を崩す。慶応3兄弟として過ごしたシーズンは、刺激に満ちていた。

「達さんはすごいなっていう印象で、廣瀬はよく頑張ったなって感じです。廣瀬は打てないところから始まりましたけど、そこからどんどん上げて打ちまくっていたので、それはすごいなって思いましたし、メンタルも強いなって思いました。達さんは最初、2軍スタートが同じで。なかなか1軍に上がれない中でも、やっぱり昇格したらすぐに結果を出していた。すぐに定着したのは、実力がすごいなと思いましたね」

 3人のうち、自分だけが1軍に呼ばれなかった5月28日が忘れられない。「一緒に上がれなかったのは悔しかったですし、僕はその時全然打てていなかったので。2人が上がったのも『そりゃそうだろうな』って思いました」と、受け入れるしかなかった。「2人に負けないように頑張ろうと思えたのも、達さんと廣瀬が1軍に上がって結果を出していたからです」。次男ならではのモチベーションは、キャリアハイの成績へと導いてくれた。

ソフトバンク・正木智也(左)とと廣瀬隆太【写真:竹村岳】
ソフトバンク・正木智也(左)とと廣瀬隆太【写真:竹村岳】

 廣瀬は7月15日に登録抹消となった。1軍ではここまで35試合に出場して打率.233、2本塁打、9打点。「意外と早く1軍を経験できたことは良かったんですけど、(2軍に)帰ってきてからはなかなか1軍に行けていないんで、そこは悔しいです」と、神妙な面持ちだった。2人の兄は自分のガムシャラな姿を評価してくれたが、本人は「勝手に頑張っていただけですよ」と謙遜する。身に起こる全てが初めてだった中でも「結局、やっぱり一番話すのはその2人ですね」と、慶大の輪に自然と加わっていた。

 正木とは大学時代、ともにプレーした経験がある。「一緒にやってきた仲なんで、正木さんが活躍すれば、自分にもできるんじゃないかっていう、その希望を与えてくれるというか。正木さんが打ったら自分も打たないと、っていうのはありました」と背中を追いかけてきた。小久保裕紀監督に「図太いな!」と言わせる強靭なメンタルの持ち主。「やっぱり1年目でしたし、実績がない。失うものもなかったんで、気楽っちゃ気楽でした」と、順位が決まった今も、後輩らしく語った。全力で駆け抜けたからこそ、悔しさも嬉しさも色濃く胸に刻まれている。

「達さんはチーム事情もあって、はじめは1軍に上がることができていなかったので。苦しいのかなって思っていましたけど、技術はやっぱりありました。いつでも1軍で結果は出るんだろうなっていう風に思ってました。正木さんも(結果を出していて)羨ましいです。(自分自身は)牧原(大成)さんと三森(大貴)さんが怪我してセカンドがいないっていう中で、少しでもそこの穴を埋められたんだったら、やっぱり頑張ってよかった。別にチームの勝利とかに貢献したいと言える立場ではないですけど、結果的に優勝に貢献できたなら嬉しいです」

 心を共にしながら、それぞれがチームでの居場所を懸命に見つけてきた。長男、柳町の言葉が、1年を象徴するように言う。「廣瀬が一番頑張ってくれたからこそ、だと思いますね。正木にも僕にも火をつけてくれたのは廣瀬でしたね」。お互いに高め合ったようなシーズンで、4年ぶりに掴んだリーグ優勝。慶応3兄弟の存在も、光り輝くハイライトの1つだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)