WBC出場も、自己最多の58試合登板ができた理由
クールな右腕に対して、周囲が口にした“表情の変化”――。「自己最多の登板数を超えそうだなという感覚は途中からあったので。あんまり数字は意識していなかったですね」。淡々と振り返ったのは、キャリアハイとなる58試合に登板し、CSファイナルステージでも3連投をこなすなど、ブルペンを支え続けた松本裕樹投手だ。
12年目を迎えた今シーズンは、3月に日本代表「侍ジャパン」の一員としてワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場。ペナントレース開幕後はセットアッパーとして58試合に登板して4勝5敗32ホールド、防御率2.22の成績をマーク。4年連続で50試合登板をクリアし、リーグ3連覇の原動力となった。
春先からWBCに向けた調整を重ねたこともあり、右腕にとっては通常よりも長いシーズンとなっている2026年。そんな中でキャリア最多の登板を重ねた。コーチの目から見ても「本当にまた1段階上がったな」という姿があった――。右腕が進化を遂げた裏側には、1年間継続すると決めていた“ルーティン”があった。
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この先で分かる3つのこと
自己最多登板を支えた、休まず続けた「ある日課」とは
中田コーチが明かす、連投後に増えた「頼もしい一言」
打者をさらに悩ませる、軌道が変わった「あの変化球」
「今年はウエートを1年間継続してやっていますね。これまでは身体の休養に合わせて、疲れてきたら(強度を)落としたりしながらやってきたんですけど。今年は休まずにやっていました。きっかけが特に何かあったわけではないですけど、毎年始めの時期はしっかりとやっていたので。今年シーズンに入るにあたって、最後まで続けようとは思っていました」
一昨年の9月には右肩痛での離脱も経験し、体の状態には人一倍気を遣いながら調整を行ってきた。一方で今シーズンは際立った「タフさ」。ブルペンで右腕の姿を日頃から見つめている中田賢一投手コーチ(ブルペン補佐)は大きな変化を口にする。
「ウエートをしっかりと続けて、体が強くなったのを一番感じますね。連投をしても、投げた次の日の肩の張り方を含めて、すごくタフになった1年だったなと感じました。去年まではいろいろと体と相談しながらの時期もあったんですけど、今年はある程度、安心して連投も任せられる状態で、本人からも『大丈夫です』という言葉が増えたので。本当に体力面も含めて『また1段階上がったな』とすごく感じています」
プロ12年目でキャリア最多となる58試合に登板。松本裕自身もこれまでと異なる身体の感覚を実感していた。「登板数はチーム状況にもよりますけど、自分の中での身体の回復具合とか、そういったものは今年は良かったかなとは思います。今年は投げる張り以上にウエートの張りを常に身体が感じている状態でした」。明るく語る姿が、今シーズンの充実ぶりをはっきりと示していた。背番号「66」の表情の変化を中田コーチも感じていた。
「基本はあまり表に出さないタイプですけど、今年は体調の不安がないところが表情にも出ているかなと。やっぱり年齢的にも成熟期に入ってきていると思うので、今年に関してはしっかり鍛えながらシーズン中も進んでいくことで、すごくバランス良くできている。この過ごし方で1年間やれば、体がついてくるという感覚が残った1年だったのかなと思います。昨年より確実に色々な面でレベルアップしていますね」
フォークの進化「軌道が変わってきている」
3、4月は8試合で防御率4.50と、本来の姿からは遠い状態だった。それでも、5月以降は44試合で防御率1.64と完全に立て直した。「最初は自分の中でしっくりこない部分もあったんですけど、交流戦前の日本ハム戦でのブルペンでいい感覚を掴んで。そこから真っすぐの感覚は良くなって、継続してきました」。1つずつズレを修正し、後半戦では春先から探りながら練習してきたフォークの状態が上がってきた。中田コーチは「バッターにとってはより嫌になったんじゃないか」と語る。
「最近はフォークの軌道が変わってきて、しっかりと落ちるようになってきているので。去年までは基本真っすぐ、スライダーが良くてという形だったんですけど、今年はフォークの感覚が良くなって。カーブも単発で使えているので、狙いづらいピッチャーになってるんじゃないかなと思う。投球面でも確実にレベルアップはしていると思います」
2年連続の最優秀中継ぎのタイトル獲得とはならなかったが、「今年は野手の皆さんがたくさん点を取ってくれた。ホールドを取れるか取れないかは、チーム状況次第にはなるので。それはそれでしょうがないかなって。1試合1試合のことしか考えていないです」。淡々と語る表情に、特別な感情はにじませなかった。日本シリーズでもカギを握る“8回の男”。頼もしさを増した右腕が、チームのために腕を振り続ける。
(森大樹 / Daiki Mori)