正捕手がいながら他球団の正捕手を獲得…前代未聞の“世紀の電撃トレード”
ソフトバンクは17日、福岡移転後では初となるパ・リーグ3連覇を達成しました。5月中旬には4位に沈むなどシーズン序盤は苦しみながらも、右肩上がりに上昇カーブを描くと、首位を奪還した6月30日以降、一度もその座を譲ることなく頂点に立ちました。「鷹フル」では編成部門の責任者、三笠杉彦取締役GM(以下、三笠GM)の独占インタビューを実施。今季の編成の舞台裏に迫りました。第1回は「山本祐大捕手獲得の舞台裏」。球界を揺るがしたレギュラー捕手獲得の狙いを紐解きます。
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チームがなかなか波に乗り切れない中で迎えた5月12日。午前10時半にソフトバンク、そしてDeNAの両球団から発表された一報が、球界に衝撃を与えた。山本祐大捕手と、尾形崇斗投手、井上朋也内野手による1対2の交換トレードが成立した知らせだった。
山本祐といえば、れっきとしたDeNAの正捕手だ。2024年には108試合に出場して打率.291をマーク。ゴールデン・グラブ賞、ベストナインにも輝き、侍ジャパンにも選出された。今季もトレードになるまでDeNAで28試合に出場し、発表直前の5月10日の阪神戦でもスタメンでマスクを被っていた。
一方で、ホークスには2025年のリーグ連覇、そして日本一に貢献した海野隆司捕手が今シーズンも主にマスクをかぶっていた。正捕手に近い存在がいるのにもかかわらず、他球団の正捕手をトレードで迎え入れる――。そんな前代未聞の事態だったからこそ、「世紀の電撃トレード」とされた。
球団はなぜ、この決断に踏み切ったのか。三笠GMが明かした獲得の狙いは、1年半前のオフにまで遡る――。
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この先で分かる3つのこと
海野がいるのになぜ?三笠GMが語る獲得の「真の狙い」
なぜ成立?電撃トレードを可能にした鷹の「最大の武器」
割を食う若鷹へ…熾烈な競争の裏にある「壮大な野望」
「これは世代交代の大きなチャンスであると考えた」
「ずっとレギュラーキャッチャーだった甲斐(拓也)選手がFAで移籍した。それは残念なことだったんですけど、これは世代交代の大きなチャンスであると。海野君であったり、谷川原(健太)選手とかに頑張ってもらおうと考えた。その一方で、僕らは育成も補強も力を入れるし、トレードもしっかり積極的にやっていく。短期的には勝たなければならないし、中長期的にも強いチームを作っていこうとする中で、パッと思いついたわけではなく、山本選手をとてもいいキャッチャーだと評価していました」
発端は2024年シーズン終了後、甲斐が巨人にFA移籍したことにあった。長らくチームを支えた球界屈指の正捕手がチームを去り、今後の編成をどう考えていくか――。この時、球団は海野、谷川原、渡邉陸捕手らを軸に、世代交代を進めていくことを選んだ。その一方で、中長期的に強いチームであるために、さらなる戦力補強の可能性も常に模索していた。
海野という正捕手に近い存在がいながらも、チャンスがあればより捕手陣の層は厚くしておきたい。年齢を重ねた選手ではなく、今後数年にわたって海野とともにチームの屋台骨を支えてくれる存在ならなお良い。「ベストは若いキャッチャーを獲りたいと思っていました。甲斐選手が出て、勝つためにベテランを補強して1年、1年(ポジションに)充てていくのであれば、若い選手を充てていこうと」。その中で、ターゲットの1人として目を光らせていたのが、山本祐だった。
「もう城島健司CBOの現役時代のように、143試合フルイニングでキャッチャーが出るという時代でもない。野手の中では怪我の多いポジションですので。海野君の成長を引き続き期待しつつ、山本君も獲得できたら、この先何年かは大丈夫だと考えた」
「他の球団に行ったら、1軍レベルで活躍できる選手がたくさんいる」
では、なぜ他球団の正捕手を獲得するという大型トレードが成立し得たのか。三笠GMは、ホークスならではの事情を挙げる。
「手前味噌になりますけども、他球団に行ったら1軍レベルで活躍できる選手がたくさんいるというのが、編成視点で見れば大きなオポチュニティ(機会)になる。我々には本当にいい選手がたくさんいるので、トレードのチャンスがある。山本君は向こうのレギュラーキャッチャーですから。僕らだけではなくて、みんな(他球団)が見ているという中で、ご縁があったらいいなと考えていました」
他球団のレギュラー捕手を迎えるには、それに見合う選手を差し出さなければならない。DeNAに移籍した尾形は、160キロに迫る豪速球を武器に2025年はリリーフとして38試合に登板。今季もトレード発表時点で10試合に登板しており、1軍の戦力となっていた。井上は今季1軍出場こそなかったものの、期待の大きな内野手の1人だった。
「尾形君も井上君も期待をしている選手だったことは間違いないです。それでも総合的に考えると、山本君に来てもらって、尾形君と井上君はベイスターズでチャンスをもらって。それがベイスターズ球団にとっても、我々にとっても、そして選手にとってもウィンウィンになるトレードなんじゃないかなと。そう考えたうえで決断をしました」
現に尾形、井上ともに1軍の舞台で活躍を見せるなど、しっかりとDeNAの戦力になっている。ホークスではなかなか1軍に定着できなくとも、他球団に求められる選手がいる。育成だけでなく補強も駆使し、1軍で戦える選手を数多く抱えてきた。そうして作り上げた層の厚さこそが、トレード市場では最大の武器になる。
割を食う海野、谷川原、渡邉…それでも「そのくらいじゃないとダメ」
補強をすれば、当然それによってチャンスが減少する選手がいる。山本祐の加入で、海野や谷川原、渡邉の出場機会は限定的となった。世代交代の“主役”として期待された3人にとって、目の前に大きな壁が立ちはだかることになる。さらに若い捕手たちにとっては、なおさらだ。この点についても三笠GMはキッパリと言う。
「補強をしたら(他の選手の)出るチャンスがなくなるのではないか、という話もあるとは思いますが、『そのくらいじゃないとダメ』だと思います。1軍で活躍できるレベルの選手層が厚ければ厚いほど、チームは強くあり続ける確率が高いわけですから」
ホークスで出番を掴むには、この熾烈な競争を勝ち抜かなければならない。競争原理を働かせ続けるからこそ、層の厚さを維持できる。たとえ競争に敗れたとしても、その選手に新たな道はある。
「うちでチャンスがなかった選手。例えば尾形君もそうですし、日本ハムに行った水谷(瞬)君とか吉田(賢吾)君、田中正義君もそうですけれども。ホークスで育ったうえで、他球団で活躍してくれるのはとても嬉しいこと。それはスカウティングの目とか、我々の育成が間違っていなかった証明の1つになる。それがホークスとしてやっていきたいことなので」
仮にホークスで芽が出なくとも、他球団で花開いてくれれば、それでもいい。ホークスで育った選手が活躍することでリーグ全体、さらには球界全体のレベルの底上げに繋げることも、ホークスとして目指す“育成”だと、三笠GMは言う。
「僕らは世界一を目指して、今年も勝って、その先も勝っていこうとしている」
貪欲に戦力強化を図ろうとする背景には、球団として掲げる壮大な野望がある。
「閉じられた日本球界の中で、いかに効率的に勝っていくかという話をするのであれば、もっと費用対効果が上がるようなやり方はあるかもしれません。ただ、『日本一になることも、我々のスローガンである世界一に向けての“ステップ”と考えて球団経営をするように』と孫(正義)オーナーから言われていますので。メジャーリーグのチームもプロスペクトの育成をし、補強もしている。彼らと互していかなきゃいけないとイメージしたら、まだまだ取り組みとしては足りないし、規模も小さいと思っています」
「僕らは世界一を目指して、今年も勝って、その先も勝っていこうとしている。その中で、生え抜きでやるだけがいいとは思っていません。育成はしないで、補強だけでやるとも思っていない。強いチームを作り続けるには、育成もやれば、補強もする。トレードも考えて、できる限りの工夫をしていかないといけない」
目指すのは、あくまでも世界一。パ・リーグを制し、日本シリーズを勝ち抜くことも、その通過点に過ぎない。
そして、その決断は結果となって表れた。「バッティングがとてもいいという評価をしてましたけど、本当に予想以上の活躍をしてくれました」。骨折による離脱はありながらも、山本祐は正捕手としてチームを支え、打撃面でも大きく貢献した。球界を揺るがした電撃トレードは、3連覇という結果として実を結んだ。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani), (長濱幸治 / Kouji Nagahama)