試合前、川瀬と今宮が交わす握手の意味
シーズンの終盤、リーグ優勝を目前に控えた9月10日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)での出来事だった。スタメン発表も終わり、グラウンドへ飛び出す直前に、川瀬晃内野手は今宮健太内野手の右手をベンチの中で力強く握った。「頑張れよ、任せたぞ」。たった一言に込められた、先輩との“固い絆”があった。
川瀬はプロ11年目の今季、73試合に出場して打率.206。昨季から出場試合数、打撃成績ともに下げることになった。「情けないですね。去年はすごくいい経験をさせてもらった中で、今年は期待に応えることができなかったです」。2年目の庄子雄大内野手が台頭したこともあり、遊撃のスタメンを譲る試合が増えた。
そして、直前まで16打席連続無安打で迎えた一戦。背番号「0」は「8番・遊撃」でスタメンに名を連ねた。チーム内での役割や立場が少しずつ変わっていく中、川瀬と今宮の間には、2026年シーズンを通じて深まった絆があった。背中を押してくれた“師匠”の言葉とはーー。
会員になると続きをご覧いただけます
この先で分かる3つのこと
今宮健太が川瀬に贈った、知られざる「最大の賛辞」
名手・今宮が川瀬に思わず尋ねた「ある深い質問」
苦悩の1年を経て、川瀬が明かした日本Sへの「誓い」
「今年、僕と健太さんが試合に出たり出なかったりすることが続いていたんで。そういう友情というか……っていう感じです。あまり一緒に出ることはなかったので『今日頑張ってください』『今日いけよ』みたいに声をかけ合って。会話がやっぱり自然と多くなりました」
プロ入り以来、長年遊撃を守り続けてきた今宮。今季は「14年連続開幕ショート」というプロ野球記録を樹立した一方、4月11日の日本ハム戦(エスコンフィールド)で左肩甲骨に死球を受け、亀裂骨折。その後は徐々に出場機会が減り、代打での途中出場も増えていった。ベンチで出番を待つ時間が増えた2人の間では、自然と言葉を交わす機会も増えた。
「健太さんも途中出場の大変さ、1週間に1回スタメンで出て結果を残す難しさを話していましたし、『それをできる晃はやっぱりすごいな』という言葉をいただいたこともありました。『逆にこういう時どうしたらいいの?』とか、そういう意見の交換もしましたね。より一層、奥の深い話ができたのかなと思います」
2026年は「まだまだ弱さも感じた」
レギュラーシーズン中、2人がそろってスタメン出場した試合はわずか5試合。「本当はもちろん2人で試合に出られるのが一番いいんですけど、そういうチーム状況もわかっているので。あまり一緒に出ることはなかったからこそ、励まし合う言葉が増えました」。試合前の練習では、川瀬が二塁や遊撃だけでなく一塁の守備にも備え、今宮も今季プロ入り後初めて守った二塁や三塁でノックを受けるなど、それぞれが与えられた役割を果たすために準備を重ねてきた。
ともに出番を待ち、戦い続けた2026年シーズン。かつて自主トレをともにした師匠との関係にも、変化が生まれていた――。「今年は特に健太さんの存在は大きかったです」。固く交わした握手には、互いを認め合い、支え合ってきた2人だからこその思いが込められていた。
「今年は自分もまだまだ弱さも感じましたし、良いように考えたらまだまだ成長できると思っているので。短期決戦ではチャンスもあると思う。しっかり自分ができることをしっかりやって、チームに貢献したいなっていう気持ちが今は強いですね」
どんな役割にも応えられるユーティリティープレーヤーとして、チームに欠かせない存在であり続けるために。日々の準備を怠らず、出番を待つ。「反省することがほとんどですけど、シーズンは終わったことなので」。川瀬は前を向いている。
今宮は10月5日の楽天戦(楽天モバイル最強パーク)で右太もも裏を負傷。CSファイナルでの復帰を目指していたものの、日本シリーズの出場資格者40人に名を連ねることができなかった。川瀬晃、今宮健太、ともに苦しんだ2026年ーー。それでも来季に向けて一歩ずつ歩みを進めている。
(森大樹 / Daiki Mori)