勝てば13勝目も…3失点でタイトル獲得はならず
意地と意地、執念と執念がぶつかり合った。“消化試合”という言葉で片付けられる一戦ではない。「プロ野球選手しているなと、一番感じましたね」――。そう言って背筋を伸ばしたのは、前田悠伍投手だ。全力で抑えにいった角中勝也外野手へのリスペクト。そして「アウト1つ」に残った自らの宿題。真剣勝負を振り返り、21歳は胸を張った。
10月2日のロッテ戦(ZOZOマリン)は、左腕にとってのレギュラーシーズン最終登板だった。引退試合を迎えた角中の背中を大声援が押す中、マウンドに立った背番号41。「雰囲気はすごくよかったですよ。ロッテファンの方々はいつも(声援が)すごいんですけど、より盛り上がっているようには感じました」。白星がつけば自身13勝目。最多勝と最高勝率の確率がグッと近づく。自身初タイトルをかけた一戦でもあった。
大ベテランを勝利で送り出したいロッテと、前田悠のタイトル獲得のために全力で戦ったホークス。お互いの順位がすでに決まっていた今季141試合目だったが、両チームの“本気”が間違いなくぶつかっていた。ここにプロの醍醐味がある。力投の末にこぼれ落ちた初タイトル、悔しさを噛み締めた“1アウトの壁”。反省点を理解しながらも、前田悠の表情は清々しささえ感じさせた――。
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この先で分かる3つのこと
あとアウト1つで降板…前田悠伍が倉野コーチと話した夜
「テンション上がった」角中勝也の引退試合で見せた本気
「今年だけの話」12勝マークも前田悠伍が慢心しない理由
実は“楽しみ”にしていた角中の「応援歌」
「プロ野球しているなと、一番感じましたね。自分も初めてのタイトルがかかっていて、めちゃくちゃ真剣にいきましたし、いつもよりも(バッターに)向かっていきました。ロッテの攻撃も簡単に終わらせてくれなくて、2アウトを取ってからも執念というか、渋いヒットも打たれたので。それでも最後まで出力も落ちなくて、8回まで入ることができたのは今後につながるのかなと思いましたね」
7回まで1失点に抑え、初めて8回のマウンドにも上がった。しかし、2死一塁から佐藤に勝ち越しの2ランを浴びると、続く井上にも四球を与えたところで降板。自己最多の122球と力投したが、13勝目は掴めなかった。直後の攻撃で山本祐大捕手が逆転3ランを放っただけに、8イニング目を投げ切れなかったのは大きな“宿題”。前田悠がタイトルホルダーになるには「あとアウト1つ」、届かなかった。
「あの夜、倉野(信次)さんとも話をしました。攻撃でも守備でも、野手の助けがなかったら今年はタイトルとは縁のない成績だったと思うので。ホームランの後に出してしまったフォアボール。まだまだだなと思い知りましたし、足りないところがあるとすごくわかった試合になったので。今までが上手くいきすぎでしたね」
8回を投げ切っていたとしても、山本祐の3ランは生まれなかったかもしれない。しかし、どんな時も前田悠が求めるのはチームの勝利だ。逆転で白星を拾ったことで、前向きな反省点も溢れてきた。「僕的にはすごく収穫がありました。最初は5回でもしんどかったのが、8回までいくことができたので。ちょっとは成長したのかなと思いますし、1球1球の質は戻ってきた感じがします」。
通算1345安打を放ち、2度の首位打者を獲得した角中の引退試合。ZOZOマリンはロッテファンの熱い雰囲気に包まれていた。3打数無安打に抑えた前田悠は、大ベテランとの真剣勝負を笑顔で振り返る。ずっと楽しみにしていた“応援歌”――。
「最後というのはわかっていましたし、僕が引退する側だったら手を抜かれるのは嫌なので。面識はまったくないんですけど、角中さんに対しては、より全力でいきました。僕はあまり(アマチュア時代に)プロ野球を見ていなかったんですけど、それでも角中さんの応援歌は知っていたので。『絶対流れるよな』と思ったら、ちょっと(テンションが)上がっちゃったのはありましたね」
プロ3年目のレギュラーシーズンが終了…自らの成績に語る思い
昨年までは2年間でわずか4試合の登板のみ。3年目の今季に急成長を遂げると、19試合に登板して12勝1敗、111回2/3を投げて防御率2.10と圧巻の成績を残した。レギュラーシーズンが終わったからこそ、冷静に振り返ることができる。前田悠は自らの結果をどのように受け止めているのか。
「これだけ勝てるとは思っていなかったですし、ある程度、思っていた以上のイニングは投げられました。だけど、それは今年だけの話なので。常に勝ちにつながるピッチング、アウトを取れる力をつけていかないと、スッと足元をすくわれる気がします。来年も成績を残さないと『たまたま』と言われてしまうだろうし、僕が客観的に見てもそう思うでしょうから。今から、そのための練習をしていかないといけないです」
倉野コーチをはじめ、厳しい目を向けてくれる周囲のおかげで、左腕の辞書に「油断」の2文字はない。真っ向からぶつかった真剣勝負で「あとアウト1つ」が奪えなかった。この経験を力に変えて、前田悠伍はもっと勝てる投手になる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)