リーグ優勝の5日に今季3度目の登録抹消
「本当は逃げたいですよ、でも……」。プロ入り後、初めて1年間を通してマウンドに立ち続けた2026年。プロ4年目の木村光投手には、忘れられない長い夜がある。壁にぶつかり、思うようにいかない日々。悔しさを抱えた右腕が、決意を固めるために向かった場所があった。
今シーズンは自身初の開幕1軍入り。自己最多となる37試合に登板し、3勝0敗、10ホールド、防御率2.57の成績を収めている。開幕から9試合連続無失点を記録し、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から「序盤のMVP」と称されるなど、リーグ3連覇に大きく貢献した。
一方で、後半戦はゼロを並べられない試合が続き、チームが3連覇を決める5日前、9月12日に2軍降格を言い渡された。プロ野球の世界で、1年でも長く活躍するためにも「絶対乗り越えないといけないので」。右腕が明かしたのは、眠ることができずに、自宅を飛び出して走り出した夜の記憶だった。そして胸に刻んだ斉藤和巳2軍監督の言葉とはーー。
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この先で分かる3つのこと
深夜の神社で右腕が誓った、壁から逃げないための決意表明
打たれた夜に書き殴る「放送不可の言葉」とノートの秘密
優勝直前の降格…斉藤和巳2軍監督からかけられた言葉とは
「投げている感覚的にも、状態はいいと思うんです。でも打たれてしまう。今、壁にぶつかっている感覚がすごくあって……。やっぱり自分が進化しないと、春先の状態では通用しない。その日も、帰ってからシャワーを浴びて、ソファーでメンタルノートを書いて、それでもモヤモヤしていたので、近くの神社へ走りにいきました」
感情を忘れないためにオールスター明けから書き始めた“メンタルノート”。「思いを書き殴っているので、放送できない言葉が書いてあります」。笑いながら明かすが、この日は思いをノートに書き出しても、気持ちは晴れなかった。心を落ち着かせるため、自宅近くの神社へーー。「今、上手くいっていないから、ちょっとだけ手助けしてください」。いわば”神頼み”だったが、その願いはこの状況から逃げ出すためのものではなかった。
「正直、本当は逃げたいですよ。でもこれを乗り越えたら野球はもっと楽しくなると思うんです。だから『自分がこの壁から絶対に逃げない』と決意するために行きました。自分なりの決意表明みたいな感じです。でもこういう時って誰しもがあると思うし、ここで落ちていくか、落ちていかないかが、プロ野球で長く活躍するかしないかの分岐点だなと思ったので」
斉藤和巳2軍監督から「結果で示せ」
結局、ベッドに入ってもしばらく眠りに就くことはできなかった。何度も寝返りをし、右腕にとっても絶対に忘れてはいけない一夜となった。「でも次の日に持ち込みたくはなかったので」。日付が変われば、また試合がある。翌朝7時30分に起きて、デーゲームが行われる本拠地へ向かった。「去年は後半戦から1軍だったので。今年は充実しています。やっぱり全部上手くいきすぎたら面白くないじゃないですか。そう思って、今頑張るしかないなと思っています」。初めて1年間を通して戦ったからこそ、立ちはだかった壁だった。
倉野コーチも、その苦悩は理解している。「1年間フルで戦った経験が今までないわけですから、ペース配分はできないんですよね。光に関しては夏場以降はパフォーマンスが下がりましたけど、ここから乗り越えられるかどうか。それがこの先、来年、再来年と、光の野球人生においては、乗り越えていかないといけないものだと思います」。背番号68が、どんな姿で課題と向き合っているのか。首脳陣も目を光らせて見守っている。
そして、リーグ優勝の直前に言い渡された登録抹消。悔しさを抱えながら2軍に合流した今月13日、タマスタ筑後の室内練習場で斉藤2軍監督から言葉をかけられた。
「悔しい気持ちもわかる。でも、言葉じゃなくて、結果で示せ」
数々の栄光と挫折を味わった指揮官だからこそ、その言葉は重かった。プロ野球選手としての使命を、木村光も痛いほど理解している。「だから結果で示してみせます。ポストシーズンもまだ残っていますし、やるしかないです」。決意を新たにして腕を振っている。
チームが3連覇を成し遂げ、喜びに沸くグラウンドには、背番号「68」の姿もあった。「去年よりは力になれたかなと思うので。でももちろん悔しい気持ちはあります」。歓喜の輪の中にいても、悔しさは消えなかった。木村光ならどんな壁も乗り越えられる。また1つ大きくなって、1軍のマウンドで輝いてみせる。
(森大樹 / Daiki Mori)