育成5位ルーキー・鈴木貴大が流した悔し涙
溢れる涙を、堪えることができなかった――。19日のファーム・リーグ阪神戦(タマスタ筑後)。試合時間3時間36分のナイターゲームを終え、翌日もデーゲーム。次々と選手がクラブハウスへと引き上げていく中、1人でノックを受け続けていたのは、育成ドラフト5位ルーキー・鈴木貴大外野手だった。全ての練習を終え、室内練習場に戻った直後。記者の問いかけに、張り詰めていた感情が、一気に溢れ出した。
「悔しいですね。不甲斐ないし、申し訳ないです」
涙が頬をつたい、その声は明らかに震えていた。プロの世界に飛び込んで半年。自らの現在地に抱いている感情が、そこには現れていた。
藤沢清流高、富士大、クラブチーム「CLUB REBASE」を経て、24歳でプロ入りを果たしたオールドルーキー。前半戦は3軍戦や特化組(打撃や守備など各々の課題に特化した練習に注力する組)で経験を積み、支配下登録期限が過ぎた8月以降は2軍戦での出場が増えている。斉藤和巳2軍監督も「どんな時も声が出ているし、うちだけじゃなくて、ここ最近の野球界にいないタイプだよね」と評する泥臭い姿勢と、豪快な打撃が持ち味の選手だ。
ただ、2軍では公式戦初安打を記録したものの、21試合で打率.148、0本塁打、4打点(9月24日終了時点)と、なかなか結果がついてこない。この日の阪神戦でも3打数3三振。悔しさを抱えたまま、それでも最後まで練習を続けた。「泣きたくはないんですけど、ここ最近ずっと堪えながらやっていました」。悔し泣きの夜――。吐露したのは、今の自分に対する率直な思いだった。
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結果が出ない2軍戦…育成5位・鈴木貴大が流した悔し涙
「泣きながらちゃんと練習する」城所コーチと挑む猛特訓
年齢への焦りと恩返しの誓い「後悔しないよう毎日全力を尽くす」
「チャンスをもらっても、何もできずにベンチに戻ることが多いので。このままじゃ終わっちゃうと思って……。2軍はずっと悔しいです。僕のことを送り出してくれたクラブチームも、高校も、僕が1人目のプロ野球選手なので。やっぱり結果とかプレーで恩返しをしていきたいんです。でも、そんな中で、悔しいし、不甲斐ないし、申し訳ないし……。そんな感じです」
あまりにも痛々しい言葉だった。それでも、3つ目の三振を喫した直後、ベンチに戻ると「ナイスバッティング! いいぞ!」と誰よりも次の打者を鼓舞する大声を出していた。「3三振だったんで、内心はキツいんですけど……」。どれだけ悔しくても、試合に出ている以上、“戦うこと”だけはやめなかった。
「ゲームに出ている以上は、やっぱり戦力になりたいので、自分のできることをやっていました。もう本当に自分のできることをやろうと、それだけを考えるようにしています。今はまだバッティング、守備、走塁でも、なかなか貢献できていないので」
鈴木貴はそこで言葉を区切った後、絞り出すようにこう続けた。「なんとか力になろうと思った時に、声を出すことしかできなかったです」――。
城所コーチ「彼は泣きながらちゃんと練習する」
オフの前日は、午後11時を過ぎた深夜の室内練習場で1人、打撃フォームの確認をするのが日課になっている。「人よりもやらないと、絶対に追い越せないので」。入団前からそうだった。担当スカウトの勧めで誰よりも早く、秋季練習から参加するなど、この1年間に全てを賭けてきた。
そんな背番号「151」の背中を押すのが、城所龍磨2軍外野守備走塁コーチだ。
「本当に“頑張る能力”に長けている子なので。みんなが応援したくなる選手。泣いているだけじゃ成長しないですけど、彼は泣きながらちゃんと練習する。悔し涙は今年1年、2軍に来て何回も見てきたことです。ただやるんじゃなくて、なるべく最短で上達するための手伝いができたらなと思います」
ホームゲームでは毎試合後、鈴木貴が10球捕球するまで外野ノックを打ち続ける城所コーチ。悔し泣きを見せたこの日の阪神戦もそうだった。「ナイターの次の日がデーゲームでも、城所さんはずっと打ってくれるので。自分の練習にも付き合ってくれる人がいる。ここまで来られたのがそもそも、やっぱり僕1人(の力)だけじゃなかったので。早くプレーで恩返しがしたいなっていう気持ちです」。謙虚な口調で、感謝の思いを語る25歳。城所コーチも、そんな鈴木貴の姿を真っすぐに見つめている。
「こちらから強制してやっているわけではないんです。本人が試合後に毎日『お願いします』と言ってくるので。貴大が打てるようになった時に『守れません』という状態だったら、守備走塁コーチとして情けないなと思うので。選手はみんな平等に見ますけど、結局そうやってやる気がある選手と接する時間は、自然と増えますよね。結局は意志が強い選手が勝つと思うので」
チーム内では廣瀬隆太内野手や石塚綜一郎捕手らと同学年。今年の4月に25歳を迎え、決して若手とは言えない年齢だ。「焦りも正直あります」と本音を明かす。少しでも2軍以上のレベルで通用するものを見つけたい。その一心で、毎日汗を流している。2軍首脳陣から「これ以上はやめておけ」と練習を止められる日もあるほどだ。
「やっぱり時間はないし、支配下も取りたい。でも、一番は、仮に野球を辞めるとなった時に、後悔だけはしたくないので。だから今は、ただひたすら野球が上手くなりたい、野球を長く続けていきたいという思いで頑張っています。野球がうまくなりたいという思いが燃え尽きない限り、毎日全力を尽くします」
悔しさを味わって、それをバネにさらに努力する。涙の数だけ強くなれる――。そんな男だからこそ周りも応援したくなる。「野球が上手くなりたいので。明日からまた切り替えて頑張ります」。涙を拭いて室内練習場を後にする鈴木貴大の背中は、数多くの存在に支えられている。
(森大樹 / Daiki Mori)