苦しみ続けた1年「色んな人を裏切った」
ホークスは福岡移転後、初となるパ・リーグ3連覇を成し遂げました。 鷹フルでは主力選手はもちろん、若手や首脳陣、スタッフにもスポットライトを当てながら、2026年シーズンを振り返っていきます。 守護神の杉山一樹投手が明かしたのは、小久保裕紀監督への深い感謝でした。2点リードを守り切れず、チームもサヨナラ負けを喫した8月26日のロッテ戦(ZOZOマリン)。翌日、指揮官は集まった野手を前にこう宣言しました。「今日も杉でいくから」――。
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海野隆司捕手と抱き合い、感情を爆発させた1年前とは対照的なゲームセットだった。17日のオリックス戦(京セラドーム)。6点リードの9回を三者凡退に仕留めた杉山は、普段の試合と同じように仲間とハイタッチを交わした。長いペナントレースの末に優勝を決めた一戦とは思えぬ姿に、右腕の心情が読み取れた。
苦しみ続けた1年だった。4月11日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。自身のふがいない投球に怒りを抑えられなかった杉山はベンチを殴打し、左手を骨折した。バスで宿舎に戻ったチームメートと離れ、球団広報に寄り添われながら球場を後にした右腕は号泣していた。「色んな人を裏切ってしまったというのが、自分の中で一番強かったので。その後悔でしたね」。自らの愚行がどれほどのことだったのか。我に返ると涙が止まらなかった。
現在リーグトップタイの33セーブを挙げる一方で、防御率3.00。右腕が目標に掲げていた防御率0点台には程遠い数字だ。悔しさが募る1年も、指揮官は杉山を見捨てることはなかった。セーブに失敗した翌日、監督室で小久保監督が右腕に問うたのは1点のみだった。「不安はないのか?」――。
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この先で分かる3つのこと
自ら抑え降板を申し出た杉山に指揮官がかけた一言とは
「クビ」を覚悟した杉山を救った2軍時代の起用法とは
「使い壊されてもいい」守護神・杉山が指揮官に抱く覚悟
小久保監督から唯一問われた「不安はないのか」
「ロッテ戦の前のカードで練習中に足首を痛めていて……。僕は小久保さんに『行けます』と伝えたんですけど、(26日の試合で)抑えられなかった。それが『足首の影響じゃないのか』という話になって。監督室に呼ばれて、僕は『抑えを外れたほうがいいと思います』と伝えました。小久保さんは足首について『不安はないのか』と。『そこは大丈夫です』と答えたら、『もう野手の前で伝えたから。不安がないんだったら、いくぞ』と」
右腕を問答無用で守護神から外すことは簡単だった。それでも、小久保監督はコンディション面に問題がないのかを確認するだけだった。シーズン途中から抑えに転向した昨季は、最後まで「9回固定」を明言されなかった。一方で、今季は左手骨折から復帰後すぐに、指揮官から抑えを任せることを告げられた。「嬉しかったですね、嬉しかったですし、言葉が難しいですけど『心中してくれているのかな』と」。犯した過ちを、右腕にどう真正面から向き合わせるのか。指揮官の決断こそ、その答えだった。
「ここまで使ってもらえているのは、本当に小久保さんと倉野(信次)コーチのおかげなので。恩は本当に強いです」
小久保監督が2軍の指揮を執っていた2023年、杉山は春季キャンプで右肘を痛め、実戦復帰したのは7月中旬だった。「シーズンも残り2か月くらいしかないじゃないですか。『もうクビだろうな』と」。諦めの感情を抱いていた右腕だったが、小久保監督の起用法に光を見出した。「中3日で先発で回ったりとか、4連投もあって。とにかく投げさせてもらった。オフに契約してもらったのも、その影響はあったと思います」。翌2024年に恩師は1軍監督に就任。そこから杉山の人生は大きく変わった。
「色々と言われたり、怒られたりもしましたけど、小久保監督のためならという思いは強いです。大げさですけど、小久保さんが監督をやめるまでは、僕がこのチームを去るまでは、ずっと使ってもらいたいなと思います。僕は自分のことを『駒』だと思っているので。使い壊されてもいいです。行けと言われたら行くしかないですし、行けないんだったらユニホームを着る前に言わなきゃいけない。僕がユニホームを着ている以上、小久保さんには僕のことを自由に使ってもらいたいと思ってるので。どこでも行きますというのは、そういう思いもあります」
自らの行動に、世間から大きな声が聞こえてきた。成績も到底満足いくものではない。全てを受け止めつつも、杉山は穏やかな表情でこう口にした。
「『この1年がありがたかったな』というのは思っています。去年はセーブの失敗がなくても9回に固定されていたわけではなかったのに、今年は失敗しても固定してもらって。この3年間はほぼ怪我なくやってきたのに、今年は怪我をして。いろんなことが起きましたけど、自分にとってはすごく良いシーズンだったと思います」
杉山一樹が過ごした激動の2026年シーズン。これからどれほどの投手になり、どのような姿を見せていくのか。この1年が大きな分岐点となることは間違いない。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)