開幕ローテが“崩壊”した非常事態「大変な1年でした」
リーグ優勝の特別企画としてお届けする、三笠杉彦取締役GM(以下、三笠GM)の独占インタビュー。第2回のテーマは「危機が生んだ次世代の台頭」。3連覇を果たした2026年。苦しみの末に差し込んだのは、ホークスの未来を明るく照らす光だった――。
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頂点への道のりは決して平坦ではなかった。福岡移転後初となるパ・リーグ3連覇。球団史に輝かしい偉業が刻まれた一方で、苦労の絶えない1年でもあった。
特に苦しんだのが先発投手陣だった。開幕ローテは上沢直之投手、松本晴投手、カーター・スチュワート・ジュニア投手、大関友久投手、徐若熙投手、大津亮介投手の6人で臨んだが、大関とスチュワートは不振による2軍降格を経験。徐は7月に腰を手術し、上沢も右肘の不調で戦列を離れた期間があった。シーズン前に描いていた予想図は、序盤から狂いが生じていた。
三笠GMも編成部門の責任者として、苦しかった胸の内を明かす。
「ピッチャーに怪我人が多くて、大変な1年でした。野手が踏ん張ってくれたことで、勝ちを積み上げてくれました。去年は野手の主力に怪我人が出た中で、中堅クラスの選手が活躍して優勝したシーズン。今年はピッチャーの離脱者が多かったですけど、前田(悠)君や大津君、松本晴君……。そういうピッチャーが、野手に支えられながら“一人前”になった年でした。ここから先にも繋がる年、そんなパフォーマンスだったと思っています」
チームを襲った危機は若い力の“覚醒”につながった。開幕からローテを守り続けた大津亮介投手、4年目にして自身初の2桁勝利をマークした松本晴投手。そして、高卒3年目で無傷の12連勝を達成した前田悠伍投手――。中でも21歳左腕の台頭は、球団にとって“想定外”と言えるほどのものだった。
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「みなさんの想像以上だったと思っています」
「前田君の活躍は僕に限らず、みなさんの想像以上だったと思っています。『これくらいできる』と思っていたのは、一番は本人かもしれないですね。立ち振る舞いを見ていると、彼はもっとできると思っていたのかもしれない。でも、我々からすればもう、本当に想定以上の活躍をしてくれました」
開幕を2軍で迎えた前田悠は、5月3日の楽天戦(みずほPayPayドーム)で今季初先発を果たすと、5回4安打無失点の好投。続く同10日のロッテ戦(同)で今季初勝利を挙げると、そこから連勝街道を突っ走った。負け知らずのまま、積み上げた白星は12個に達した。
未来のエース候補として期待していた逸材の台頭。今季の3連覇に大きく貢献したことは間違いないが、三笠GMが見出す価値はそれだけにとどまらない。
「ホークスが長きにわたって強いチームであるために、(中心として)やってほしいと思っていた人。中長期的に勝つチームを作るときには、飛び抜けた人がいるのといないのとでは全然違う。2010年代後半になぜホークスが強かったかというと、とどのつまり、千賀(滉大)と柳田(悠岐)と(リバン・)モイネロがいたからです。当たり前なんですけど、それがプロ野球。僕が球団統括本部として掲げている方針の一つは、(年俸)1億とか2億とかを稼ぐ人がいつつも、4億とか5億を稼ぐ人をどう生み出すか。勝ち続けていくためには、そういう存在が不可欠なんです」
層の厚さだけでは「突き抜ける」だけのチームは作れない。粒揃いの戦力の中で、特異な存在が勝負どころでチームを引き上げる。その候補として、三笠GMは具体的な名前を挙げた。
「栗原(陵矢)君は中堅ですけど、若手でいえば前田悠伍君、あとは正木(智也)君もですね。『ゲームチェンジャー』と言いますか、2010年代の千賀、柳田、モイネロのように、ボコッと出てくる存在がすごい大事。今年はピッチャーが揃わなかった結果、前田君にここまで投げてもらって。チームとしては良かったですし、ここから先もホークスを支えてくれるピッチャーになってくれるんじゃないかなと思っています」
三笠GMが“ゲームチェンジャー”と称したのは、その存在一つで試合の行方を大きく変えられる選手だ。リーグ3連覇という至上命題をしっかりとクリアしつつ、未来のホークスにとっても大きな意味を持つ1年となった。
「弾丸通路に載っているレジェンド」…37歳・柳田悠岐が示した存在感
そして「元祖ゲームチェンジャー」の柳田悠岐外野手は、37歳となった今季もグラウンドで元気な姿を見せ、チームを牽引した。投手陣とは対照的に、今季の野手陣に大きな怪我による離脱者は生まれず、近藤健介外野手や栗原陵矢内野手、周東佑京外野手ら主力が第一線でプレーし続けた。圧倒的な攻撃力を誇った打線の中心にいたのが、背番号9だった。
気温の上昇とともに調子を上げ、7月は打率.323、8月は同.398をマーク。一時は打率を3割に乗せるほど、年齢を感じさせない若々しい姿を見せた。柳田が打てば、チームも明るくなる。その稀有な存在感は相変わらずで、チームも7月に9つ、8月も6つの貯金を積み上げた。
「本人も、ここ2年間くらいは悔しい思いをしたと思いますので。今年1年間、元気にやってくれて本当に素晴らしいなと思います。仕事でも野球でもそうですけど、影響力を発揮するためにはパフォーマンスが比例していないと。いつも三振をしていたら、存在感もないじゃないですか。しっかりと準備をして、成績を残しているところが素晴らしいと思っています」
2024年は52試合の出場にとどまり、2025年は出場20試合と、過去2年は怪我に苦しめられてきた。だが、万全の状態でシーズンを送ることができれば、まだまだ数字を残せる。それを結果で証明してみせた1年だった。今季が7年契約の最終年。来季の契約について、三笠GMは「(球場の)弾丸通路に載っているレジェンドですから。しっかり(オフには)話し合いをしたいと思います」と語った。
「あらゆるところで出てくることができないと、なかなか達成できない」
投手の離脱を野手が支え、空いた枠を埋めるべく若い力が躍動する。3年連続でパ・リーグの頂点に立ち続けたことの意義を、三笠GMはこう強調した。
「2017年から2020年にかけての4年連続日本一というのはありますけど、18年と19年はリーグ優勝を逃したので。そこからの日本一はまた違う価値はありますが、3年連続でリーグ優勝を獲り続けるのは容易ではない。主力にしっかりとやってもらいながらも、離脱者が出た時には若い選手が活躍して。そういうサイクルが野手、投手ともに生まれないと、3連覇というのはなかなか達成できないので。そういう意味では小久保(裕紀)監督をはじめ、1軍コーチ陣のマネジメントも素晴らしかったですし、選手育成の面ではファームの監督、コーチ陣、コーディネーター……。何よりも選手がよくやってくれたなと思います」
誰かが欠ければ、誰かが埋める。その繰り返しの果てにたどり着いた、福岡移転後初の3連覇――。苦難の1年は、数年先のホークスを背負う男たちを浮かび上がらせる1年でもあった。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani), (長濱幸治 / Kouji Nagahama)