北斗が果たした下剋上…裏側にあったドラマ
ホークス2軍は16日、ファーム・リーグ西地区優勝を飾りました。鷹フルでは、さまざまな角度から2026年を振り返っていきます。今シーズン、7月1日に支配下登録された育成8位ルーキーの北斗投手。昨年のドラフトでは全体116番目、12球団の「ラスト指名」となった男が駆け上がったシンデレラストーリー。その裏側には、様々な苦悩がありました。「僕、もうダメかもしれないです」ーー。監督室で口にした本音の真意とは。
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一般受験で沖縄・興南高に入学し、中大では準硬式野球部でプレーした異色の経歴を持つ22歳右腕。「準硬式出身、しかも最下位指名で入団して。そこから活躍することで、色々な人に夢を与えられると思うので。そんな存在になれたらいいなと。1年目にしては、ちょっと上手くいきすぎているかなというくらいです」。プロ初登板初先発を果たした7月4日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。2回8失点で黒星を喫する苦いデビュー戦とはなったが、1年前には硬式ボールすら握っていなかった北斗がプロとしての第一歩を刻んだ瞬間だった。
準硬式からプロの世界へ。「今年はまずボールに慣れることを目標にしていたので」。この1年間を振り返って脳裏をよぎったのは、キャッチボールすらできなかった”ある日”の記憶。「やばい。絶対に怪我する」。順調なステップアップを刻んできたかに見える右腕が直面していた苦しみに迫る。
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この先で分かる3つのこと
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どん底の初登板を糧に、右腕が誓う「1軍での下克上リベンジ」
「新人合同自主トレの時から、キャッチボールをするだけで肩肘がパンパンになって。準硬式でプレーしていた時は肘にくる感じはなかったんですけど、硬式になって疲労感がすごくて。3月に実戦が始まった時が、一番やばかったです。本当に投げられなくて。右腕がパンパンになって、『あ、やばい。絶対に怪我する』と思って」
1月の新人合同自主トレ中には右太ももの肉離れで離脱を経験した。「普通に練習量が半端なくて。大学でも毎日練習はしていたんですけど、ここまで内容の濃い練習じゃなかったので」。大学入学当初は想像もできなかったプロの世界。3月の3軍戦で登板した翌日、感じたことのない肩肘の張りに思い悩んでいた右腕に声をかけたのは、大越基3軍監督だった。指揮官もその日を鮮明に覚えていた。
「もうキャッチボールすらできないような姿の彼を見たんです。監督室に呼んで話をしました。『僕、もうダメかもしれないです』と話していて。でも、準硬式の時とやっぱりボールが違うので。自分も1年半くらい野球を離れて、その後に米国で野球を始めた時、すごかったんですよ。もう次の日はキャッチボールもできないくらいに。『俺と似ているな』と思って」
練習中に突然「おい、北斗」と監督室に呼ばれた右腕は、当時の思いを笑いながら明かす。「『え、何かやらかしたっけ?』と。絶対に怒られると思いました」。身構えた北斗だが、大越監督から掛けられた言葉は心を軽くした。「『こうした方がいいよ』とアドバイスをたくさんもらって。めっちゃいい人だなと。本当に感謝しています」。早大を中退後に米国でプレーし、日米の異なるボールに対応した経験がある指揮官の言葉は貴重だった。
「『勇気を持って投げないことが大切』をいう話をしてもらって。コーチからも『今日は投げる日やろ』みたいには言われたんですけど、大越監督から『そこで無理はしない方がいい。絶対に張りが出るから、慣れてくるまでは止めておいた方が良い』と言っていただいて……。それから段々と自分の調整法を見つけて、出力も上がっていきました」
その言葉には大越監督の優しさと同時に、右腕に“残された時間”への思いが込められていた。「北斗は高卒じゃないので。『もう時間がない』という話もしました。『この1年1年、1か月1か月が勝負になるから、怪我をするのが一番ダメ。そういう立場にいるんだぞ』って。それに北斗の場合は、目を見て言葉が胸に響いている感覚があったので」。それ以来、定期的に声をかけているという。
「もう1回1軍に」掲げる目の前の目標
忘れられないのは初登板の記憶だーー。初回、先頭打者の藤原に初球をいきなり右翼テラス席に運ばれると、2回には打者一巡の猛攻を受けて一挙7失点。2回8失点という、苦いデビュー戦となった。
「『1つのアウトを取るのって、こんなに難しいんだ』って。頭が真っ白になって。『どうやってアウトを取っていたっけ?』と。負のループでしたね。一瞬すぎて、夢みたいな1日だったんですけど。1軍で通用するために、ここを突き詰めていかないといけないんだなというのを感じました」
ファーム・リーグでは13試合に登板して3勝1敗、防御率2.06の成績を収めている。「焦っていた時期もあったんですけど、あの時に大越監督が言ってくれたおかげで、こうしてしっかり投げられているので。1年を通して段々と調整の仕方を見つけて。疲れても良いパフォーマンスを出せるような状態にはなってきたと思います」。2軍のローテーションを回る中で、今も課題と向き合っている。
「もう1度、今年中に1軍へ上がりたいです。もうちょっと『自分ができるんだぞ』というのを見せつけたい。準硬式出身で入って、しかも最下位指名からで。活躍することで夢を与えられると思うので」。
見据えるのは、1軍のマウンドでのリベンジだ。12球団のラスト指名から駆け上がってきた。苦い経験も、すべて成長への糧にして――。北斗はまだまだ這い上がる。
(森大樹 / Daiki Mori)