30試合に登板して防御率1.64も…勝ちパ入りは「全然ない」
ビハインド展開での登板が主ながら、ここまで安定した投球を続けている右腕が口にしたのは“意外な本音”だった。「もう影薄くやっておけばいいかなと。投げているのも気付かれないくらいの感じが、一番いいのかなと思います」。そう明かしたのは、伊藤優輔投手だ。
今季はここまで30試合に登板して1勝1ホールド、防御率1.64を記録している29歳。昨季までのプロ5年間での通算登板数は「13」。故障に悩まされることが多かった中で、6年目の今シーズンは充実した日々を送っている。
これほどの成績を残しながら、勝ちパターンに入ることができない。それはホークス救援陣の層の厚さを如実に表しているが、本人はあくまで冷静だ。冒頭の言葉は、卑屈になっているから出てきたわけではない。右腕が明かしたのは、今も消えない“強烈な危機感”。そしてリーグ3連覇に前進するチームにおける、最強リリーフ陣の一員としての“誇り”だった。
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この先で分かる3つのこと
伊藤が追求する「ビハインド投手」の極意とは
「本音は勝ちパで投げたい?」コーチの問いへの答え
一度落ちたら戻れない…常勝軍団が持つ「真の怖さ」
「勝ちパターンで投げているピッチャーとは、また違うので。そこを任されている投手は実績がありますし、やっぱり投げる場面も全然違うので。僕が投げるケースは抑えて当たり前の場面ではあると思うので。なるべく印象に残らないくらいが一番、ちょうどいいのかなと思っています」
謙遜しながらも口にした思いは、伊藤にとって“大真面目”な回答だった。「やっぱり僕らが投げている場面で投手が目立つということは、点を取られてることが多いじゃないですか。だからこそ、『投げているのも気づかれない』くらいの感じが、ビハインド展開で投げるピッチャーにとって一番いい状態だと思います」。味方の反撃を引き出せるよう、波風なく相手の攻撃を終わらせる。それこそが伊藤の考える「ビハインドピッチャー」の極意だ。
若田部コーチからの“依頼”「聞いておいて」
黒子のような役割を淡々とこなす右腕に対し、若田部健一投手コーチ(ブルペン)は感謝を口にした。「今は勝ちパターンのピッチャーが多いので。そういう中で、チームが劣勢でも抑えてくれているのは、非常に貢献をしてくれている。流れを止められるというのは、やっぱり大きいので。本当によく頑張ってくれています」。
若田部コーチは伊藤の働きを称えたうえで、こう付け加えた。「優輔も本当は勝ちパターンの中で投げたいと思っているんじゃないかな。『なんで俺を勝ちパで使わないんだって思っていないか?』って聞いておいて」。
その言葉を伝え聞いた伊藤は「全然思っていないです」と笑いながら否定した。その真意を問うと、右腕らしい答えが返ってきた。「優勝争いをしているチームで、1軍に居られることが一番大事だと思うので、例えばほかのチームだったら良い場面で投げられるかもしれないですけど、それは違うなと。やっぱり勝ってナンボだと思うので。そういうチームに居る中で、自分の居場所をしっかり作っていくことが、今は大事かなと思ってます」。
リーグ3連覇を狙えるチームは、12球団でホークスのみ。常勝軍団の一員としての自負とともに、伊藤が常に抱いているのは「次は俺かもしれない」という危機感だ。
「それはいつも不安ですよね。勝ちパターンの何人かは固定ですけど、それ以外ってなると2、3人くらいが入れ替わりの対象だと思うので。だからこそ、1回でもミスったら『2軍に落ちるかもしれない』というプレッシャーを感じながら投げていますよ」
何が起きるかわからないのがプロ野球の世界。勝ちパターンの投手にアクシデントが起こりうるのと同時に、自身の立ち位置も決して安定しているわけではない。「下から誰かが上がってきても、なかなかそのピッチャーが打たれるチームじゃないので、ホークスは。1度落ちたら、すぐには戻ってこられないというのは、なんとなくこの2年間で分かったので。とにかく必死です」。
先発投手や勝利の方程式に比べれば、目立つ存在ではない「ビハインドピッチャ―」。だが、チームのため、そして自らのために死に物狂いで戦っているのは、主力と同じだ。歓喜の瞬間が訪れた時にこそ、日々の苦しみは報われる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)