7回にダメ押しの1号3ラン…小久保監督も「遅すぎる!」
置かれている立ち位置を誰よりも自覚し、ひたすらに前を向く。ヒットマンとしての“壁”に直面しながらも、現状を打破するために活路を探してきたのが柳町達外野手だ。本来の持ち味と、手に入れたい長打力――。その狭間で吐露していた本音は「難しさを感じている」。苦悩を乗り越えるために試行錯誤を重ねてきたバットが、ついに歓喜の放物線を描いた。
待望の瞬間が訪れたのは7回だった。2死満塁で山本祐大捕手の2点二塁打で追加点を奪い、なお二、三塁という状況で打席に向かった。真ん中に入ってきたボールを逆方向に弾き返すと、打球は勢いを失うことなく左翼テラスに吸い込まれた。今季121試合目で飛び出した1号3ラン。「遅すぎる!」。ベンチで破顔する小久保裕紀監督からも、そう声をかけられたという。久々の感触を手に残しながら、ゆっくりとダイヤモンドを一周した。
この日は3安打猛打賞を記録して、打率.247まで上昇。小久保監督も「ああいう打撃を9月にしてくれると助かります」と目を細めた。特筆すべきは“仕掛け”の早さ。2、3打席目は初球から手を出すなど、この日の4打席はすべて追い込まれる前にフェアゾーンに飛ばして決着をつけた。昨シーズンは最高出塁率のタイトルを獲得した29歳。選球眼が持ち味であるはずのヒットマンに、どんな変化が生まれているのか。その答えには、生々しい危機感が滲み出ていた。
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この先で分かる3つのこと
柳町達が打席で意識を変えた「前のめりな姿勢」の真相
芯に当たっても失速…柳町達が吐露した苦悩と修正点とは
9月4日愛息の誕生日に…快音を響かせた父としての思い
自らも「久しぶり」と認める逆方向への長打
「もうシーズンも残り少ないですし、僕自身に与えられているチャンスも少ないので。まずはしっかり打てるタイミングを取って、初球から行こうと今は思っています」
8月に記録した安打はわずかに5本。9試合の出場で打率.192にとどまった。これまでは打席内における見極めを武器に、快音を重ねてきた。しかし、後手に回っていてはいけない――。「ストライクは3球ある。その3球を最大限に使えるように、色々と考えながらやりたいなと思っています」。どんな好打者でも、追い込まれれば打率は落ちる。競争を勝ち抜くためにも“前のめり”な姿勢が必要だと感じていた。スタイルを変化させる小さな工夫が、少しずつ結果へとつながりつつある。
遡ること3週間前。打線が16得点を挙げて大勝した8月11日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)、柳町は8回2死満塁で左翼フェンス直撃の3点二塁打を放っていた。自らも「久しぶりでしたね」と語る逆方向への長打。ここに、29歳が抱く“難しさ”がある。
「あの打席はいい感じで打てました。いい時と悪い時の差が激しいので、続けられるようになればいいのかなと思います。(意識していたのは)真っすぐにタイミングを合わせて、立ち遅れしないこと。ファーストストライクのスライダーをファウルにできたんですけど、あれは真っすぐのタイミングでいってスイングを仕掛けられたので。そういうことが増えていったらいいのかなと思います」
鳴りを潜めていた逆方向への打球…吐露した「難しさ」
近年は長打の増加をテーマに掲げ、あらゆるトレーニングを重ねてきた。ライト方向にも力強い打球が打てるように試行錯誤を繰り返してきた一方で、本来の持ち味であったはずの逆方向への当たりは鳴りを潜めていた。「今年の序盤は逆方向にも飛んでいたんですけど、いい当たりが野手の正面を突くことが多かった。『引っ張れる打球を打てるようにならないと』とは思いながら、難しさを感じているところなんですけど……」。昨季のタイトルホルダーが漏らしていた苦悩だった。
引っ張った打球はドライブ回転がかかり、長打になりづらいと自己分析した柳町。ここ最近ではトップスピンがかかるように、あらためて打撃フォームを見つめ直している。「芯に当たっているのに失速するような打球が多かった。そこが原因だったと思いますし、今の状態だからこそ新しいことにも取り組めているのかなと思います」。終盤戦の経験も豊富な29歳のバットが、ここから何度もチームを救ってくれるはずだ。
9月4日は、愛息の3歳の誕生日だった。「昨日(3日)がオフだったので、お祝いしていました。『特別頑張ろう』という気持ちがあったわけではないんですけど、力をくれる大きな存在なので。息子の特別な日に1本が出てよかったかなと思います」。笑みを浮かべる表情は、頼もしい1人の父親。壁があるなら、乗り越える。これまでもそうやってプロ人生を歩んできた。ホークスを歓喜に導くため、もっともっと快音を響かせる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)2026.09.05