知られざる9年前のブルペン
思わぬ巡り合わせに胸が高鳴った。懸命なリハビリを続ける先輩の復帰を、誰よりも待ち望むのは岩井俊介投手だ。3年目を迎えた右腕と、今季途中にトレードで加入した山本祐大捕手には京都翔英高出身という共通点がある。年齢は山本祐が3つ上で、岩井の入学時にはすでに山本祐は卒業していた。「もうビックリして、速攻でLINEしましたよ」。移籍を知った岩井はすぐさま連絡した。
「『こんにちは。お疲れ様です。これからよろしくお願いします』って送ると、祐大さんからは『お疲れ。よろしく。わからんことだらけやから頼むな』って返事がきました」
中学時代から甲子園で活躍する先輩の姿を見ていた岩井は、自身が高校1年生の春に思わぬ形でグラウンドで共に練習することになる。右腕の脳裏に今も鮮烈に焼き付いている「エグすぎる記憶」――。プロの舞台で同じユニホームを着ることになった2人の間には、知られざる“9年前の1か月”があった。
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この先で分かる3つのこと
独立入り前の山本祐大が直面していた大きな壁とは
高1の岩井が今も忘れない、先輩の「エグい返球」
復帰を待つ岩井が「ドキドキする」と語る胸の内
壁にぶつかった先輩と、入部したての後輩
「祐大さんは大学に行くことをやめて、独立に行くまでずっと高校で練習していたんですよ。その時に、めっちゃピッチングを受けてもらったりしていたんです」
当時の山本祐は大きな壁にぶつかり、一度は道を見失いかけていた。独立リーグに入団するまでの約1か月間、母校のグラウンドで後輩たちに混ざって汗を流していた。その輪の中に、入学したばかりの岩井がいた。右腕には当時の記憶が色濃く残る。
脳裏に焼き付く「エグい返球」
「キャッチングもめっちゃ凄かったんですけど、何より返球がエグかったです」と岩井は興奮気味に振り返る。「肩が強すぎて、返球でもボールが伸びてくるんですよ。軽く投げているんですけど、シューって。僕の同級生とはまた違った綺麗な回転で。返球でビビったのをめちゃくちゃ覚えています」。9年が経った今でも、高校1年生の岩井にとっては衝撃的な出来事として刻み込まれていた。
高校1年時のあの1か月間、具体的なアドバイスなどはなかったというが、先輩の背中から学んだものは計り知れない。一度は道を断たれかけた山本祐が独立リーグを経てプロの世界を這い上がり、岩井もまた大学を経て同じ舞台へと辿り着いた。
現在は入れ違いになってしまい、まだ一瞬しか顔を合わせられていないという2人だが、同じユニホームを着てグラウンドに立つ日は確実に近づいている。「祐大さんが復帰して組めることを考えると、もうドキドキします」。嬉しそうな笑顔で語る岩井からは、成長した姿を見せたいという純粋な思いがにじむ。
9年という歳月を経て、135キロそこそこだった右腕は、今や20キロも球速を増した。山本祐が当時のことを覚えているかはわからない。それでもバッテリーを組めたのであれば、当時の記憶を共に懐かしく振り返りたい――。岩井の本当の成長を誰よりもわかってくれるのは、あの日ボールを受けてくれた先輩のはずだ。自慢のストレートをミットへ投げ込む瞬間を、誰よりも強く、静かに待ち望んでいる。
(飯田航平 / Kohei Iida)