4回の大ピンチ、バッテリーが察知した「狙っている」
絶体絶命のピンチを乗り越え、この日一番の雄叫びを上げた。「あそこをゼロで切り抜けられるのは、力がある証拠」。指揮官も絶賛した、粘りの投球だった。1点リードの4回2死一、二塁のピンチ。上沢直之投手がこの日最速となる152キロのストレートで空振り三振を奪った。77球目に投じた“魂の一球”の裏側には、マウンド上でとっさに下した決断があった――。
7日のオリックス戦(京セラドーム)。先発の上沢は初回と2回に失点しながらも、6回2失点の粘投で今季5勝目を挙げた。 試合を分けたのは4回だった。先頭の森に内野安打を許し、1死から紅林の中前打で一、三塁のピンチを背負う。ここでギアを一段階挙げた。宗を三ゴロに仕留め、本塁封殺で2死とすると、続く若月をカウント2-2と追い込む。最後は高めの真っすぐで空振り三振を奪ってみせた。
ピンチを切り抜けて、上沢が見せた熱い雄叫び。実はこの一球の直前にプレートを外していた。 「あの場面、1回サインは決まったんですけど……」 。この日もマスクを被った海野隆司捕手。バッテリー2人の言葉から、試合を分けた一球の舞台裏に迫った。
会員になると続きをご覧いただけます
この先で分かる3つのこと
一度決まったサインを変更した、打者の不穏な雰囲気とは
5回以降の3者凡退を呼んだ、中盤からの組み立ての変化
序盤の失点から修正できた、ベンチ前で海野と交わした言葉
「最初はフォークのサインだったんですけど。セットに入った時にフォークを狙っている、打ちそうな雰囲気を感じたので……。あの場面、1回サインは決まったんですけど、しっかりと時間を取って真っすぐをチョイスしました」
そう明かしたのは上沢だった。右肘のコンディション不良からの復帰戦となった6月23日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)で、左翼席への本塁打を許した若月との対戦。変化球を続けて追い込んだところで、危機察知能力が働いた。「打者の反応を見て、自分も『ちょっと違うかな』と思ったので。相手バッターの狙いを考えて、という感じですね」 。海野もマスク越しに異変を察知し、バッテリーの呼吸を合わせるように間を置いた。
2人が選択したのは渾身のストレートだった。上沢の中には確信があった。「相手も変化球をケアしていると思うので、しっかりと強い真っすぐをいいところに投げられれば手が出るかなと思いました」。ピンチを切り抜けると、5回は3者連続三振、6回も3人できっちり片付けた。
「調子自体は悪くなかったので(ここを切り抜ければ)いけるなと。そこからは色々な変化球を使いながら、組み立てを変えてテンポ良く行けたのかなと思います」
重ねたバッテリーの会話「切り替えられた」
初回、2回と序盤から失点を重ねる苦しい立ち上がりだった。それでも、ランナーがいない場面でもクイック投球を試みるなど、「本当に色々と考えながらでした」と振り返る。打者のタイミングを外しながら、見事に立て直してみせた。味方の攻撃中には、ベンチ前で海野と入念に打ち合わせをするシーンが何度も見られた。
「海ちゃん(海野)と『今日はこういう感じで攻めてきているから、少し変えよう』と話して。結局、投げてみて相手にどういう反応をされているかが大事だったので。話し合いをして切り替えられたのはよかったです」
終わってみれば6回2失点、今季最多タイとなる9個の三振を奪った。「スピードも出てきたので、調子自体は良くなっているなと思います」と手応えをにじませる。右肘のコンディション不良から復帰して3戦目。球数も復帰後最多となる105球を投じた。
「とにかくカード頭なので、勝てるようにと思ってマウンドに上がりました。野手も援護してくれたので、このまま勝ち切るんだという思いでした」。試合を分けた一球の攻防。バッテリーが明確に意思を共有していたからこそ生まれた、熱い雄叫びだった。
(森大樹 / Daiki Mori)