前田悠伍が変貌した8分間 「もう楽しむしかないな」…1年ぶりに見せた“笑み”に隠された真実

  • 記者:長濱幸治
    2026.06.07
  • 1軍
小久保裕紀監督(右)とハイタッチを交わす前田悠伍【写真:井上学】
小久保裕紀監督(右)とハイタッチを交わす前田悠伍【写真:井上学】

初回は39球も…5回1安打7奪三振1失点で無傷の3勝目

 初回に39球を要した20歳左腕が、2回以降はまるで別人のような姿を見せた。ベンチに座り、たった1人で下した決断――。わずか「8分」あまりの時間で、前田悠伍投手の内面では明確な“変化”が起きていた。

 6-3で勝利を飾った6日のDeNA戦(横浜)。先発マウンドに上がった前田悠は初回、2つの四球と安打などで1死満塁のピンチを背負うと、ヒュンメルには押し出し四球を与えて早々に先制点を献上した。「初回はどうなるかなと。(前回登板に続いて)2試合連続の満塁弾もよぎったけどね」。小久保裕紀監督も心配そうに見つめていたが、2回のマウンドに上がった左腕は周囲の不安を一掃した。

 先頭として打席に入ったのは、大阪桐蔭高時代にバッテリーを組み、全国制覇を果たした1学年上の松尾汐恩だった。前田悠は4球で遊ゴロに仕留めると、そこから一気に波に乗った。5回まで1人の走者を出すことなくアウトを積み重ね、結果的には5回1安打7奪三振1失点で今季無傷の3勝目をマーク。チームを救う快投を披露した。

 初回の投球を終え、2回のマウンドに上がるまでのインターバルはおよそ8分間。ほんのわずかな時間で左腕は何を考えたのか。マウンド上で思わず浮かべた「笑み」の意味、そして投手が陥りやすい“負のスパイラル”から抜け出した経緯を振り返った。

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この先で分かる3つのこと

ベンチの8分間で何が変わった? 好投を呼び込んだ「思考」
大阪桐蔭の先輩・松尾との対決直前に交わした「やり取り」
1年ぶりに見せた「笑み」の真実。ピンチで心に決めたこと

「試合前のキャッチボール、そしてブルペンと調子が良いことは分かっていたので。久しぶりの登板ということもあって、大事にいかなきゃいけないという思いが強すぎました。初回が終わってベンチに座った後、すぐに『テンポよくいこう』と。2回以降に変えたのはそれだけです」

親しみを込めた“汐恩”呼び…試合前に交わしたやり取り

 状態が良いからこそ、丁寧に抑えたい――。その欲が際どいコースを狙い、結果的に3四球を与える原因となっていた。この日バッテリーを組んだ海野隆司捕手から返球を受け取ると、すぐにサインをのぞき込む。大胆さを取り戻した前田悠のボールは、明らかに力強さを増していた。

 好投の背景にはもう一つの要因もあった。「2回の先頭が“汐恩”だったのも、すごく大きかったと思います」。親しみを込めて名前呼びする先輩と、プロの世界で訪れた初対決。マウンド上で対峙すると、松尾が笑みを浮かべた。前田悠も思わず口元を緩めた。「試合前に『抑えるわ』って連絡は送っていました。ああやって対戦を楽しめる機会はなかなかないので。『もう楽しむしかないな』っていう感じでしたね」。

 遡ること1年、昨年7月13日の楽天戦でプロ初勝利を挙げた際にも、前田悠はピンチの場面で笑みを浮かべていた。「やっぱり楽しめている時が一番いいピッチングができるので。それがいい方向に働いたかなと思います」。相手や自分と戦うよりも、純粋に野球を楽しむ――。その思いが前田悠に本来の姿を取り戻させた。

 故障や不調などで苦しんできたホークスの先発陣。その中で無傷の3勝目を挙げた20歳は確かな存在感を示しつつあるが、前田悠はすぐに気を引き締めた。「次の登板では2回以降の姿を最初から出せるように。そういう意味ではすごくいい登板だったと思うので。次が大事になると思います」。自らの内面と向き合い、つかんだ感覚。20歳はまだまだ成長を続けていく。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)