斉藤和巳監督が山本恵大を呼び止めた30分間 必然の凡ミスに見えた隙…“仙台の好返球”は「偶然じゃない」

  • 記者:森大樹
    2026.05.23
  • 1軍
見事なバックホームでピンチを救った山本恵大(左)と室内練習場で声をかける斉藤和巳2軍監督【写真:森大樹、加治屋友輝】
見事なバックホームでピンチを救った山本恵大(左)と室内練習場で声をかける斉藤和巳2軍監督【写真:森大樹、加治屋友輝】

斉藤和巳2軍監督が称えた山本恵大のバックホーム

 1軍戦で勝利を呼び込んだ山本恵大外野手の完璧なバックホーム。「偶然じゃなくて必然よ」と称えたのは斉藤和巳2軍監督だ。「毎日やっているから、あれができる。『ここに投げなアウトにならん』というところに送球ができるわけやん」。先日まで2軍で時間を過ごしていた26歳が1軍の舞台で見せた好守は、指揮官の目にも特別なものとして映っていた。

 17日の楽天戦(楽天モバイル最強パーク)。1点リードで迎えた6回2死二塁、楽天・平良の打球は一、二塁間を破った。二塁走者は本塁を狙ったが、右翼・山本恵のノーバウンド送球が捕手のミットに収まりタッチアウト。小久保裕紀監督も「今日は山本恵大です」と絶賛するほど、チームにとって大きなワンプレーだった。

「あのプレーはすごかった」。斉藤監督は嬉しそうに、目を細めて絶賛した。遡ること約2か月――。3月のタマスタ筑後で行われた2軍戦後、指揮官は山本恵を室内練習場で呼び止め、30分にも及ぶ会話を交わした。「チャンスを逃してほしくない。育成の時の山ちゃんも見ているから……」。だからこそ伝えたかった言葉だったーー。

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この先で分かる3つのこと

「必然のエラー」の裏で、山本恵が指揮官に明かした本音
「2軍でお山の大将でいてもしょうがない」斉藤監督からの愛の言葉
完璧な送球へと繋がった、城所コーチとの泥臭い特守の日々

 1軍が開幕した直後の3月28日に行われたファーム・リーグのオリックス戦(タマスタ筑後)。2回2死走者なしで、右翼方向に上がった何でもないフライを山本恵が落球した。結果的に失点には絡まなかったが、斉藤監督はそのワンプレーで見えた“隙”を見逃さなかった。

「たまたまと言えばそれまでかもしれないけど。山ちゃんを育成の時からずっと見ている中で、個人的にはあのエラーは“必然的”に起こったと思っているから」。試合後の室内練習場で多くの選手がバットを振っている中、指揮官は背番号「77」を呼び止めた。

 山本恵は指揮官から投げかけられた会話に自らの胸の内を正直に吐露した。「キャンプでA組(1軍)の緊張感の中でやって、こっち(2軍)に帰ってきた時、どこかこの環境に慣れてしまっている部分があったかもしれません」。一生懸命やっていないわけではない。ただ環境に「慣れ」が出てしまうことの弊害を、斉藤監督も十分に感じ取っていた。

「慣れることも全然わかる。やっぱり育成の頃から山ちゃんの姿を知っているから、空気感もわかる。でも、その中でどうやって自分の中で1軍を思い描いてやるかっていうところ。それで多分、行動も姿も変わってくると思うから。周りは仲間でもあってライバルなわけで。2軍でお山の大将でいたところで何の意味もないからさ」

 厳しい言葉の裏には、いつ来るかわからない一瞬のチャンスを、己の力で必ず掴みとってほしいという親心が透けて見えた。「その時が来た時に『あ、もうちょっとやっておけばよかったな』と思うのはもったいない。意識を高くやっていたからってチャンスが来るとは限らない。そういう厳しい世界だから」。巡ってくるかわからない“その日”のために、集中した姿を見せて欲しかった。

「あのプレーは偶然じゃない」指揮官が見てきた努力

 2軍では連日、城所龍磨2軍外野守備走塁コーチと共に「守備で『ありがとう』と言われるように。上手くなりたい」と、泥にまみれて外野の特守に励んだ。1軍に呼ばれない理由が守備であると自覚し、弱点を克服するために、懸命に汗を流す姿を斉藤監督はずっと見続けていた。

「あの後は何も言う必要がないぐらい、しっかり自分の中で目標、未来像も含めて、やるべきことに集中できる思考に持っていけていた。もう何も言うことはない感じで、しっかりといつでも1軍に行ける準備はできていたので。頑張ってほしいね」

 集合の前には、毎日朝早くから打撃練習で快音を響かせた。打率4割を超えていた中で1軍に呼ばれなかった時も、決して心は折れず、モチベーションも落とすことはなく、ルーティンを継続し続けた。

「そういう姿勢はみんなが見ているし、感じている。結局は人間。そこには信頼や期待という感情が生まれる。同じくらいの力だったら、『こいつの日頃の取り組み、頑張りを見ていたら、何かやってくれるかもな』と思わせることもできるから」

 毎日の努力を知っているからこそ、1軍の舞台で見せた完璧なバックホームを見た時、指揮官は「あれは偶然じゃなくて必然よ」とはっきり口にした。チャンスは、準備を怠らなかった者にしか掴めない。山本恵大のワンプレーには、プロ野球選手としての深い矜持が詰まっていた。

(森大樹 / Daiki Mori)