DeNAから山本祐大をトレードで獲得
「ここからが大事になると思うんですよね」。プロ8年目で直面した、かつてないほどの苦境。初夏の空気を漂わせるタマスタ筑後で、決意を新たにしたのは渡邉陸捕手だ。山本祐大捕手の獲得で、押し出されるように2軍へ降格。「落ちることになった」。唯一、LINEで報告をした後輩とは――。
渡邉は4月22日に今季初昇格。先発マスクを被るチャンスも与えられ、爪痕を残そうと全力で準備を重ねていた。驚きの一報が耳に飛び込んできたのは、5月12日。DeNAとの交換トレードで、山本祐を獲得することになった。背番号00は13日のうちに2軍での再調整が決定。今はもう一度、ファームで己と向き合っている。
1軍にいたのは21日間。その期間に3度のスタメン起用があった中で、胸に刻まれた1勝があった。2軍降格という厳しい現実を、どうしても“自分の言葉”で伝えておきたかった後輩の存在。「落ちることになった」――。自らLINEを送ったのも、ともに掴んだ勝利の味がそれだけ「特別」だったからだ。
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この先で分かる3つのこと
車中で知った電撃トレード。プロ野球の無慈悲なリアル
渡邉陸のnoteを読んで…「ウルっときた」後輩とは
柳町達の背中を追い、タマスタ筑後で誓った言葉
5月10日のロッテ戦…前田悠伍と手にした勝利
振り返ったのは、10日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。前田悠伍投手とバッテリーを組み、勝利に貢献した。「母の日」に行われた一戦で、球場はピンク一色に染まっていた。「悠伍がプロに入ってきた時から捕ってきましたし、僕も刺激を受けて勉強させてもらっています」。5歳年下の相棒を、今季初勝利に導いた。2人で重ねてきた準備が報われたと、実感したような瞬間だった。
そのわずか3日後に知らされた電撃トレード。2軍降格が決まり野手陣には挨拶を済ませたが、前田悠とは顔を合わせられなかった。LINEで報告した後輩とは、背番号41のことだ。送った文章は長くない。たとえ画面越しになろうとも、再び筑後からスタートを切ることになった現実を左腕にだけは伝えなければならなかった。
渡邉は11日に「前田悠伍と母の日に特別な1勝」というタイトルで自身のnoteを更新。25歳が綴った思いの丈を、前田悠も最後までしっかりと読んだという。「特別」という言葉に、先輩の気持ちは十分に伝わってきた。「なんかウルっときたんですよね。もちろん、僕にとっても大切な1勝でした」。ここまで2勝を挙げている20歳の左腕。1軍のマウンドで躍動し、少しでも成長した姿を見せ続けていくつもりだ。
山本祐が加入したことで、チームも大きく動き出している。谷川原健太捕手が外野守備を再開させ、「第3捕手」の位置付けに。リーグトップの12本塁打を放っている栗原陵矢内野手の捕手起用についても“凍結”となった。渡邉自信は電撃トレードを、どのように受け止めたのか。
「球団として、捕手を補強したいという思いが強かったのかなと。そういうところも含めて『プロ野球だな』と思いました」
リーグ3連覇を目指しながらも、なかなか波に乗れない現状において、捕手は「補強しなければならないポジション」だった。球団にそう捉えられていたことを、身をもって痛感させられた。自分の立場はたった一日で劇的に変化する。それが自分にとって悪い方向であっても、だ。「プロ野球だな」という言葉には、この世界の“無慈悲さ”が痛々しいほどまでに詰まっていた。
トレードが発表された12日、渡邉はみずほPayPayドームに向かう車中で“ニュース”を知った。ホークスからDeNAに移籍したのは、自主トレをともにしていた井上朋也内野手だったが「正直それ(寂しさ)よりも、山本さんが来るというインパクトの方が強かったです」と本音を隠さない。補強に伴うチームの動き、そして自身の2軍降格も受け入れるしかなかった。
柳町達から学んだこと「どこにいても成長できる」
自分の置かれた環境に左右されることなく、やるべきことに集中する。その大切さを、渡邉は柳町達外野手から学んできた。「すぐに結果を出せるのはもちろんすごいんですけど、メンタルの保ち方とか、そういう部分は勉強させてもらっています」。山本祐の移籍で訪れた試練。背番号00は、どのように立ち向かっていくつもりなのか――。
「過去には甲斐拓也さんという大きな存在がいましたし、去年は競争も経験しました。どこにいても成長できるというのは達さんから教わりましたし、ここからの期間で野球人生が大きく変わる気がしているので。どれだけ成長していけるか。スキルアップを目指してやっていくだけかなと思います」
関西遠征からタマスタ筑後に戻ってきた19日、25歳は泥まみれになっていた捕手用の防具を水洗いした。ゴシゴシと磨きながら呟いた言葉は「これで『こいつやる気ないな』と思われたら絶対にダメでしょ。“姿”を大切にしていきます」。決意に満ちた誓い。渡邉陸なら、必ず乗り越えられる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)