覚えていた2年前の“特徴”
シーズン途中のトレード移籍に「時間が足りないですね」。ホークス加入から1週間が経った中で、こう現状を語るのが山本祐大捕手だ。新天地に合流して間もない男が見せているのは、周囲の想像を超えるスピードでの「適応」と、それを支える圧倒的なインプット量だ。パ・リーグの打者だけでなく、味方投手陣の特徴まで、頭脳へ一気に叩き込む日々が始まっている。
マスクを被れば、投手へ積極的に声をかけ、ジェスチャーを交えながら意思疎通を図る。この短期間で投手陣の信頼を得られている背景には、限られた時間の中での“自己犠牲”があるからだ。
「今は自分のことが全くできていない状態です」。少しでも時間があれば、映像と資料に目を通す。自分のことを後回しにしてまで、泥臭くチームへと尽くす姿勢の根底には、自身の強い信念がある。そんな男の献身ぶりを、周囲はどのようにみているのか。“2人の証言”から紐解く。
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この先で分かる3つのこと
細川コーチも驚いた、山本祐が記憶していた右腕の特徴
前田悠伍が初会話でも不安ゼロ、山本祐の驚くべき準備とは
背番号39が静かに燃やす闘志。自身の数字より目指すもの
登板当日に初めての会話
「自分から『こういうバッターなので』というのを話して『やってみようか』と。それがはっきり言えているのは、よく映像を見ているからだと思います。ベイスターズにいた時のデータなんかも整理しているんじゃないかな。カーター(スチュワート・ジュニア)が2024年に(交流戦と日本シリーズで)投げた時のイメージがこうだ、っていうのも覚えていましたし。よく勉強していますね」
こう語ったのが、捕手陣を指導する細川亨バッテリーコーチだ。山本祐の姿勢に驚きと安堵を見せる。「映像を相当見ていると思います。そうじゃないと、そういう話し合いもできないですしね」。細川コーチが感心したのはバッテリーミーティングでの姿勢だ。「発言してみな」と背中を押したと言うが、移籍直後から積極的な発言が多いと明かす。
そうしたインプットが実を結んだのが、前田悠伍投手とバッテリーを組んだ17日の楽天戦だった。2人が初めて会話を交わしたのは、登板当日のホテルを出る前のこと。「ミーティングまで話したことがなかったです」と左腕は明かす。しかし、不安は一切なかったという。山本祐が、左腕が登板した3日の楽天戦の映像を頭に叩き込んでいたからだ。
「祐大さんと試合前にいっぱい話をして、どうやっていくかみたいなビジョンを共有できました。考え方がマッチしていましたし『よく見てくれている』と思いました。(移籍して)バタバタしている中で、時間を作ってもらったことが、すごくありがたかったです」。この試合で今季2勝目を挙げた左腕は、山本祐への感謝と敬意を口にした。
背番号39が燃やす静かな闘志
山本祐自身も「何回か(バッテリーを)組んでいく中での成功体験、失敗体験みたいなもので、話が弾むようになっていくと思うので。そういったところを大事にしたい」と、豊富な経験があるからこそ焦りはない。時間が足りないと語る中でも、最善を尽くせるところは尽くす。時間をかけて築いていくものもある。そのすべては「優勝」というたった1つの目標に向けられている。
「一番は勝つためにやっているので、そこが抜けてしまうのはプロ野球選手としてはどうなのかなと思うので。投手の数字も、自分の数字ももちろん大事ですけど、キャッチャーはやっぱり優勝に向かってやるべきだと思うので」
背番号39は、こう力強く語る。マスクの奥の瞳は今日も静かな闘志を燃やしている。
(飯田航平 / Kohei Iida)