直前に“耳打ち”→豪快弾…リチャードに漂うガチ覚醒 本気度が見えたふとした瞬間

紅白戦で豪快アーチを描いたリチャード【写真:冨田成美】
紅白戦で豪快アーチを描いたリチャード【写真:冨田成美】

紅白戦で新加入の浜口からアーチ「結果はうれしいけど…」

 この世界で生き残っていくためには、打ち続けなければならない——。自らの立ち位置を理解しているからこそ生まれる“必死さ”が伝わってきたワンシーンだった。宮崎春季キャンプ第4クール3日目の17日、紅白戦で豪快なアーチを描いたのがリチャード内野手だった。

 場面は2回無死、マウンドには新加入した浜口遥大投手が上がっていた。イニング間の投球練習をじっと見つめたリチャードは、左腕のボールを受け終えてベンチに戻ろうとしていた渡邉陸捕手をつかまえた。言葉を交わすこと数秒間。すっきりした表情で打席に入ると、初球の真っすぐを迷いなく振り切った。打球は左中間フェンスを悠々と越え、芝生席に着弾。喜びを見せることなく、淡々とダイヤモンドを一周した。一見、何気ないシーンから浮かび上がったのは、リチャードの「本気度」だった。

「初めて(打席に)立つピッチャーだったので。切れのある真っすぐなのか、ピッとくる真っすぐなのか。真っすぐの質にも色々あるので。陸にはどういう真っすぐなのか一応聞いておいて、打席に向かいました」

 紅白戦で対戦するのは当然、味方ピッチャーだ。シーズン中に対峙することはもちろんないが、この1打席のためにリチャードはできることを全てこなした。公式戦と同様の「ガチモード」が生んだ豪快弾。「仲間ですけど、真剣勝負で行きました」。8年目の今季にかける覚悟が生んだ行動だった。

 今オフは山川穂高内野手に「変わりたい」と懇願し、自主トレから行動をともにしてきた。ここまでハードトレーニングを続けてこられたのは、1年でも長く野球をやりたい一心だったからだ。師匠との日々で気付いたこと、それは徹底した準備の大事さだった。

「ホームランという結果が出たのはもちろんうれしいですけど、きょうは準備がちゃんとできていたので。あの場面は先頭打者で、体が動くようにしっかり意識していたので。それがよかったなと思います。アピールはもちろんですけど、準備を大事にしているので。1日1日、怠ることがないように集中していきたいです」

 普段は陽気なキャラクターでチームメートから愛されるリチャードだが、このキャンプでは明らかに目の色が違う。相手投手が1球ごとに球種を伝えるライブBPでも、あえて別の球種を待って打席に立つなど、試合を想定した対応力を磨こうとする工夫もしている。

 紅白戦でしっかりと結果を残したリチャードは、表情を緩めることなく言い切った。「立場的にもアピールしなきゃいけないので。見逃す球はないと思って全部いきました」。ポテンシャルの高さは誰もが認める一方、精神面を課題に挙げられてきた25歳。覚醒の予感をプンプンと漂わせている。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)