尾形崇斗は「もっといける」 山川穂高が認めた才能…2人をめぐる浅からぬ“因縁”

ブルペンで投球練習を行う尾形崇斗【写真:冨田成美】
ブルペンで投球練習を行う尾形崇斗【写真:冨田成美】

近藤「いい球」柳田は「エグい」…最強トリオの目を丸くさせた右腕の投球

 球界屈指のアーチストが思わずうなった。宮崎春季キャンプ第4クール2日目の16日、予定されていた紅白戦はあいにくの雨で中止となったが、ブルペンはいつにもまして熱を帯びていた。ホークスが誇る主軸がそろって目を丸くしたのが、尾形崇斗投手のピッチングだった。

 13日のライブBPで最速155キロを計測した右腕は、この日のブルペンでも快調だった。力みのないフォームから繰り出されるストレートは154キロをマーク。真後ろから投球を見守った山川穂高内野手が思わず苦笑いを浮かべるほどだった。実は浅からぬ「因縁」のある2人。通算252本塁打を誇る男は、どこか嬉しそうに尾形の印象を口にした。

「後ろから見ていても、ボールがすごく強いので。(投手陣は)みんな強いんですけど、尾形は特にね。(西武時代に)対戦したこともあるんですけど、打席で見るのとはちょっと違うというか。去年も結構投げていましたけど(登板12試合)、もっといけるというか。これ以上のレベルにいけるんじゃないかと思って見ていますけど」

 2020年6月23日の西武戦。当時3年目の尾形は敵地でプロ初登板を果たした。7回のマウンドに上がり、2死満塁で迎えたのが山川で、フルカウントから押し出し四球を与えた。その後に適時打を浴びて、1イニング3失点と苦すぎるデビューとなった右腕は、2日後に出場選手登録を抹消された。

 当時の記憶について、山川は「そうなんですか? そこまでは覚えていないですけど……」と率直に振り返った。一方で昨季は9月以降、9試合連続自責点0という投球を披露し、ポストシーズンでも重要な役割を任された右腕を一塁の守備位置から見守っていた。「球が速いというのは、それだけで打者にとって一番嫌なことですから」。今季8年目を迎える右腕の成長ぶりに目を細めた。

柳田悠岐、山川穂高、近藤健介(左から)【写真:冨田成美】
柳田悠岐、山川穂高、近藤健介(左から)【写真:冨田成美】

 ブルペンで打席に立った主軸も右腕の投球に驚きを隠さなかった。近藤健介外野手は「球が速かったですね。いい球が来ていました」と印象を語ると、柳田悠岐外野手も力強い直球がコースに決まった際には思わず「エグい」と口にした。ホークス自慢の最強トリオが揃って右腕の実力を認めた格好だ。

「トッププレーヤーからそう言ってもらえることは凄く嬉しいです。実際に自分のイメージ通りに投げられたし、いい要因が詰まったボールがいっていたので。もっといい場所を目指していきたいですし、ギータさん、山川さん、近藤さんからそう言ってもらえたのは凄く自信になりますね」

 笑みを浮かべながらブルペン投球を振り返った尾形は、山川の存在を「自分にとってのターニングポイントですね」と表現する。プロ初登板で味わった屈辱について「自分のレベルを知れたっていうことがデカいですね。投げ切ったうえで(西武打線に)打たれて、『このままじゃダメだな』と気付かさせてもらえたので」と口にした。

 右腕が続けて明かしたのは、公式記録に残っていない“記憶”だった。「1年目のフェニックス(リーグ)で山川さんに場外弾を打たれたんですけど、それも気付きでした。その時も全力を出した中でホームランを打たれて『もう無理じゃん』と思って。あれだけハードヒットしてくれたことで、『プロでうまくやっていこう』じゃなくて、『突き抜けていきたい』と思わせてくれました」。

 苦い記憶でさえ、糧にして成長を続けてきた右腕。そのきっかけをくれたのは、間違いなく山川だった。同じユニホームを着て戦う「2年目」。これ以上ない頼もしい仲間となった先輩と、1試合でも多く勝利の喜びを分かち合う。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)