「昨日はありがとう」が最高のモチベーションに…見つめた自身の役割
無念の“チーム離脱1号”となってしまった。川瀬晃内野手が第1クールの3日、守備練習中に右膝を負傷するアクシデントに見舞われた。チームにとって欠かせないユーティリティプレーヤーも今季が10年目。決意を込めて定位置奪取へと意気込んでいた矢先、手痛い離脱となった。
「右膝の骨挫傷」と診断され、その後は筑後のリハビリ組に合流。早期復帰を目指してトレーニングに励んでいる。心配した斉藤和巳3軍監督ら首脳陣に声をかけられていたが、川瀬は明るい表情で応じていた。「多少の痛みはありますが、そんな大したことはないです。膝の怪我は初めてだったので、最初に痛めた時は何か嫌な痛みで怖かったんですけど、全然大丈夫でした」と無事を強調した。
状態を語る口ぶりは明るいが、心の中は穏やかではない。怪我をしてから10日ほどが経ったが、「落ち着いてはいないです。出遅れていることには変わりないですし。めちゃくちゃ焦っているのは、焦っています」と素直な心境も明かした。
怪我をした瞬間は「最悪でした。離脱がよぎりましたね」とすぐに悪夢が浮かんだ。少しの痛みや怪我だったら当然、無理をしてでも食らいつくつもりだった。「もちろんそのつもりでしたけど、次の日にどうしても無理だなっていうのが自分でもわかったので……。これは早く言った方がいいなと思い、トレーナーさんと小久保(裕紀)監督に話をしました」と振り返る。
怪我のショックと焦りがある中で、川瀬が冷静さを取り戻せたのには指揮官からの言葉があった。報告をした際はまだ診断結果が出ておらず、大きな怪我の可能性も否めなかった。不安な思いを抱えた中でも、「大きい怪我だったらズルズルやるより、1回しっかり治した方がいい。お前の野球人生はここで終わるわけじゃないから。トータルで見た時に、痛みをとってスッキリした状態でやった方がいいんじゃないか」と話をされたという。
選手としては開幕前のポジション争いに向けて前のめりにもなるし、目の前の戦いに必死になるのは当然だが、指揮官の言葉にハッとさせられた。「一旦、落ち着いたというか、焦っていた気持ちが少し和らいだというか。やっぱり監督からもらう言葉は重いですね。心にスッと入ってくるというか。早く治そうって思いました」と笑顔で明かした。
川瀬にとって、小久保監督との出会いは自身の野球人生を語る上でも非常に大きなターニングポイントになっている。「去年1年間やらせてもらって、今までは途中から出ることに関して悔しさとか、『なんで試合に出られないんだ』って思っていましたけど。小久保監督になって、“替えのきかない存在”っていう言葉を初めに聞いた時、自分ができることは何だろうと考え、やっぱりそういうことだと改めて思いました」と受け止めることができた。
途中出場というのは決して簡単なことではない。いつでも準備し、最初から出ているかのように試合に入る。多くの若手選手が途中出場の難しさを痛感してきたが、川瀬はそれを見事に対応し、チームにとって欠かせない役割を果たしてきた。
それは監督のみならず、首脳陣からの声かけにも表れている。奈良原浩ヘッドコーチや本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチには、毎日声をかけられた。守備固めで途中出場したり、好プレーをした試合の翌日には、いつも「昨日はありがとう」と感謝されたという。
「そういう言葉をいただくから、『またやってやろう』って思うし、信頼される選手にもっともっとなりたいと思いました。どんな立場でも、自分にやれることは何かと考えられるようになって、視野が広がりました」。川瀬の考え方にも大きな影響をもたらした。
たくましい言動にも表れているが、川瀬の姿勢は後輩たちの手本にもなっている。「もう10年目だし、本当にもう下ではなくなってきているので。後輩にもこういうことを伝えていけたらな」とうなずいた。
川瀬は「今はどうしても出遅れちゃっているんですけど、一番は早く怪我を治して実戦復帰すること。そして、去年はスタメンが25試合と少なかったので、先発の数を増やしたいし、そのためにはバッティングで結果を残さないといけないので。とにかく試合数にはこだわりたいです」と具体的に目標を描く。節目の10年目は27歳にとってどんなシーズンになるのか。怪我で出遅れたとしても、“替えのきかない存在”であることには変わりない。チームにとって今季も欠かせないピースになるはずだ。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)