笹川吉康が激変…柳田悠岐と急接近の「共同生活」 改善した弱点、重なった“9番の背中”

自主トレを共に過ごした柳田悠岐(左)と笹川吉康
自主トレを共に過ごした柳田悠岐(左)と笹川吉康

昨年の日本シリーズ…小久保裕紀監督からの言葉に大きな期待を感じた

 いよいよ始まる春季キャンプ。主力11人がS組となる中、A組は38人の大所帯となった。強い決意で臨むのが、笹川吉康外野手だ。「最初は大人数を抱えてスタートしますけど、すぐふるいにかけられると思うので、落ちないようにアピールしていきたいです」。5年目にして初のA組スタート。“2月の競争”も「そこにいなきゃいけない」と、自らプレッシャーをかけてオフを過ごしてきた。

 昨年6月、念願の1軍デビューを果たした。7試合に出場して打率.286、1本塁打、2打点。6月15日の阪神戦(みずほPayPayドーム)で、待望のプロ初本塁打を記録した。日本シリーズでも2試合でスタメン起用されるなど、誰もが期待感を膨らませる1年だった。

 確かな成長を経て、覚悟はより強くなった。過去と比較しても「全然違いますね」と頷くほど、充実のオフを送ることができたのは、柳田悠岐外野手がいたから。“師匠”の力を借りながら改善してきたのは、これまで「嫌い」だと宣言してきた食生活だ。これが、笹川にとっては非常に大きな挑戦だった。

 もともとは栄養面についても、何も考えていなかった。入団時のアンケートに「好きな食べ物はジャンクフード、嫌いな食べ物は野菜」と書いた選手は、笹川以外に見たことがない。お菓子、炭酸飲料が大好きで、アスリートにとって必要な栄養素を多く含む野菜や魚が食べられなかった。

 18歳で若鷹寮に入寮したばかりの時のこと。担当スカウトの荒金久雄コーディネーター(野手統括兼守備走塁)は、笹川の横浜商業高時代の恩師から、食生活のサポートをお願いされていた。最初の1か月ほどは荒金コーディネーターが毎朝、隣で「あれも食え、これも食え」と付きっきりで見てくれていたという。ところが“監視下”から外れると、食堂の栄養士からこんな声が届く。「笹川くんがこっちの指示通りに食べてくれません」。今では笑い話だが、当時は周囲を困らせる“問題児”だった。ポテンシャルの高さを誰もが認めるからこそ、それを潰すまいと必死だったのだ。

 そんな笹川が、苦手だった魚も食べられるようになったのは昨秋の出来事。荒金コーディネーターが驚きながら、笹川の恩師に連絡をした。「先生、聞いてくださいよ。釣った魚を自分で食べていましたよ」。電話越しに、2人が目を丸くした瞬間だった。「みやざきフェニックス・リーグ」のオフ、先輩たちから釣りに誘われた。生きた魚に触れる初めての経験。自分たちで調理したことがきっかけとなり、笹川はまた1つ、“嫌い”を克服したのだった。

 もっとも避けて生きてきた野菜についても「そんなマズいとも思わなくなってきました。逆に、前までは肉だけでよかったんですけど、今はサラダとかないと脂っこいっていうか、肉だけだとちょっとキツいです」と笑顔で明かす。4年間で驚異の成長だ。体の内面から見直すなど、着実にプロとしてステップを踏んできた。当然大きいのは、柳田の影響だ。

「ギーさんが主に食事のことをいろいろ気にして、揚げ物とかを食べていないので、僕も一緒にそうしていました。(基本的に)同じものを食べていましたね。やっぱり全部が刺激になります」

DeNA・梶原昂希、ソフトバンク・又吉克樹、柳田悠岐、笹川吉康、佐藤直樹(左から)【写真:飯田航平】
DeNA・梶原昂希、ソフトバンク・又吉克樹、柳田悠岐、笹川吉康、佐藤直樹(左から)【写真:飯田航平】

 2年ぶりに参加した柳田の自主トレ。同じ場所に泊まり、全員で一緒に食事もする。「ジュースも飲んでいないし、お菓子も長らく食べていないですね。大丈夫です」と、大好きなものも我慢してきた。たまに“欲”が顔を出してきた時は、無糖の炭酸水で満たしている。レモン風味だと少し嬉しい。「今思えば、すごい食生活をしていたなって思います。去年まで全く気にしていなかったので」と自分でも驚くほど、笹川のプロ意識は高まった。

 佐藤直樹外野手や日本ハム・清宮幸太郎内野手らと自主トレを過ごした。なかでも、特に柳田と笹川はウエートトレーニングに重点を置いてきた。「ギーさんと僕は毎日同じくらいの量をガツガツやっていました。36歳でめっちゃすごいなと」。若くてパワー溢れる22歳は自らを追い込んできたが、チーム最年長のベテランが一切引けを取らないことに驚いた。超人的肉体美を築き上げる師匠に「カッコいいっす」と、改めて惚れ惚れした。

 追い掛ける“9番”の背中に「ちょっとは近づけたのかな」と控えめに頷く。憧れの存在と同じ生活を送り、食生活も根底から改善してきた。数々の“苦手”と向き合ってきた中で、「ギーさんはよく褒めてくれます。いつも高めてくれるんです」。印象に残った言葉を聞いてみると「めちゃくちゃいろいろ言ってもらったんですけど、忘れちゃいました」と頭をかく姿が、柳田にも重なった。常にポジティブな雰囲気で盛り上げてくれることが、笹川のモチベーションにも繋がっていたのは確かだった。

 柳田をはじめ、近藤健介外野手、周東佑京内野手ら高い壁が立ちはだかる外野陣。ライバルは多いが、笹川は「全然入る隙はあると思っています」とキッパリ言った。昨年の日本シリーズでは、小久保裕紀監督からこんな声をかけられたという。「柳田をDHで使うことも考えているから、しっかりやっておけよ」。チャンスはある――。だからこそ2月1日からアピールできるように、覚悟を持ってオフの過ごし方を変えてきた。掲げる目標は「開幕スタメン」。大きく殻を破った5年目は、大きく飛躍してみせる。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)