東浜巨が苦しんだ「大きなズレ」 小久保監督が直接激励…ヒントを得たド緊張の1日

東浜巨【写真:冨田成美】
東浜巨【写真:冨田成美】

小久保監督の話に「どこかに何かヒントないかな」と貪欲に耳を傾けた貴重な時間

 全ては、昨季の悔しさを晴らすため。プロ13年目のシーズンに向けて、東浜巨投手は黙々とトレーニングを重ねている。誰もが認めるストイックさは今オフも健在だ。「スキルアップというか、体力をしっかり作っていくというところと、1番はやっぱり怪我しないように過ごすことじゃないですか」。そう語る表情からは充実感が伝わってくる。

 最高の準備をして挑んだ昨季は、春季キャンプから素晴らしいパフォーマンスを発揮した。3月のオープン戦では、3試合で計15回と1/3を投げて無失点。1点も奪われない快投で、開幕ローテーションを射止めた。シーズン序盤は安定感ある投球を披露したものの、徐々に成績は下降線をたどり、7月11日には2軍降格。結果的に11試合に登板して3勝2敗、防御率3.38という数字だった。もどかしく、悔しい1年を終えた後、右腕は小久保裕紀監督とじっくり話をする機会があった。

 昨年11月、納会ゴルフでの出来事。東浜は、なんと小久保監督と同じ組でラウンドした。緊張のあまり「ゴルフをどうプレーしたか覚えてないですね」と苦笑いする。一方で、「シーズンの反省というか、『どうだったんだ?』って声をかけていただきました。なかなか長い時間、監督とご一緒することもないので、いろんな話を聞きながら……」。ゴルフをともに楽しみながら、非常に濃い時間を過ごした。

 反省も踏まえながら、指揮官に自身の取り組みや考えを訴えた。「監督とお話させていただいて、改めて再認識じゃないですけど、自分のやるべきこととか、こうあるべきだっていう姿が自分の中である程度イメージできたというか。固まったところはあります」と実りある会話だった。小久保監督を前にしても、自分が抱く課題とビジョンはハッキリと口にできた。改めて進んでいきたい道筋が明らかとなった瞬間でもあった。

 背中を押される言葉もあった。「前半のパフォーマンスを1年間トータルで出せれば、10勝は間違いないんだから」。直接の激励は、力に変わった。東浜自身も「初めてで、記憶にない。だから怖いです」というほど、良い状態で開幕を迎えられただけに、ショックの大きい1年だっただろう。悔いのない日々を過ごしても、結果を残すことができなかった。それでも、指揮官はまだまだ第一線でやれる選手だと信じてくれていた。

東浜巨【写真:冨田成美】
東浜巨【写真:冨田成美】

 ゴルフの合間、東浜は「どこかにヒントがないかなと思いながらお話を聞いていました」と、全てを野球に繋げようと貪欲だった。中でも「しっかり走り込まなきゃいけない」という話に、大きく頷いたという。

「野手の場合、レギュラーであれば毎日試合に出てヒットでも凡打でも、必ず塁間を走るじゃないですか。それだけでもランニングになるけど、ヒットが出ていない選手や、なかなか試合に出られないけど1軍にいる選手は、ずっとベンチにいる。そういう時こそちゃんと走るっていうのを、小久保さんは現役の時に意識してやっていたそうです」

 年齢を重ねるからこそ、もっと意図的に「走る」ことを取り入れなければならないと気がついた。レギュラー野手なら、試合の中で自然とできていることでもあるからだ。「ピッチャーにも通じると思います。体が疲れて、思うように操作できない時こそ休みがちになって、ケアに比重を置いちゃうところはみんなあると思うんですけど。そこで動いて感覚を取り戻す方法もしっかり考えなきゃいけない。勇気がいることですけど、積極的に取り組んでもいいんじゃないかなって」。指揮官の経験談に、生かせる発見があった。

 常に試行錯誤し、学び続けている右腕。昨季の経験もしっかり分析している。「スタートが良かったってことは、オフの過ごし方は良かったということなので、大きく変えることはしていないです」。絶好の状態を作ることができたオフの自主トレは、洗練させながら今も継続している。一方で「一番問題だったのは、シーズン中のコンディション作り。年齢も重ねて変えていかなきゃいけないところも多々あります。ちょっとしたズレを修正できずに、大きなズレになってしまった」。6月には35歳となる。体の変化を自覚しながら、自分自身との向き合い方にも、より一層フォーカスしている。

「去年仕事ができなかったので、今年1年間しっかり結果を残すように頑張りたいと思います。ずっと1軍の戦力になり続けていきたい。その思いだけです」。2025年からは、又吉克樹投手と並んで投手最年長となった。「10勝は間違いない」という小久保監督の言葉を信じながら、東浜は熱く、力を込めていた。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)