今季のホークスのカギを握ると言っても過言ではないのが、“正捕手争い”だろう。長きにわたってホームベースを守り、チームの勝利に貢献してきた甲斐拓也捕手が今オフ、FAで巨人に移籍した。絶対的存在が不在となり、捕手陣は鼻息荒く、その座を狙っているはずだ。
捕手陣を管轄する高谷裕亮バッテリーコーチは「(甲斐)拓也が抜けたかどうかは関係なく毎年競争。追い越すくらいの気持ちで入ってこないと、勝負にならない。でも、今年はより一層そういうのが激化すると思います。準備をしっかりしてきてもらいたいですね。してきてくれるとは思いますけど」とニヤリ。火花がバチバチに飛び交うような激しい正捕手争いを期待する。
今の捕手陣からはあまり表立った感情を見ることはできないという。「みんな結構出さないんですよ」。メディアに対しても豪語するタイプの選手は少ない。それでも、高谷コーチは「でも、みんなめちゃくちゃ負けず嫌いです。それは伝わっています」と、それぞれが虎視眈々と野心を燃やしていることを感じている。その中で期待を寄せる選手を挙げた。
昨季、甲斐の次に多くマスクを被ったのが海野隆司捕手だ。キャリアハイとなる51試合に出場し、うち38試合にスタメン出場した。シーズンを1軍で完走した海野が最有力と思われがちだが、高谷コーチは「横一線でしょうね」と現状を語る。「経験値としては多少あるかもしれないですけど、それは去年の話」と、あくまでも今季は新たな戦いを勝ち抜く必要があると強調する。
谷川原健太捕手は1軍での出場は4試合にとどまったが、2軍では74試合に出場した。「2軍で多くの試合に出て、体力的にもしっかりやってきた。こういうこと(甲斐のFA移籍)も考えてっていうのは、小久保(裕紀)監督とも話しましたし、城島(健司CBO)さんも含めてあったので」と、谷川原が2軍で試合に出場し続けたことの意味を語る。首脳陣から期待を寄せられた中、2軍で着実に経験を積み上げてきた。
「嶺井(博希捕手)は今までやってきた経験値もあるし、何があってもコツコツ準備しますね。どんな時でも朝早く来て練習しているので。(渡邉)陸はここ数年ちょっと悔しい思いをしていますし、強い気持ちで入ってくるでしょう。牧原(巧汰捕手)とか藤田(悠太郎捕手)もチャンスがないわけではない。育成選手にしても支配下になるチャンスは充分あると思うんで、常にガツガツ行ってほしいですね」。今年にかける意気込みが選手から存分に感じられる争いへの期待を口にする。
一方で、新たな正捕手の誕生は「今年じゃないです」とも明言した。「なかなか1年やったぐらいじゃ。僕だって現役の時は何年もレギュラーを張っていたわけじゃないので。1年で台頭していくことはありますけど、次の年はそうはいかない。そういうことの繰り返しなので。やっぱり毎年結果を残すのは難しいですから。去年の経験を今年に、今年の経験をまた次の年に生かしていって、土台がしっかりした選手になってくれればいいんじゃないですか」と、長い目で正捕手を育てていく考えもあるという。
「絶対このチャンスを逃さない、絶対掴んでやるって。毎年その思いはあるとは思うんですけど、今年はより(1軍で出られる)確率と可能性が高くなる。だったら絶対に、『このチャンスを逃したら、もう先はない』と思っていくしかないです」
高谷コーチは現役生活15年の中で、多くのライバルと競いながら1軍の試合に出場してきた。し烈な争いを毎年のように経験してきたからこそ、捕手の後輩たちにはこのチャンスを死に物狂いで掴んで欲しいと願う。「自分だったら、めちゃくちゃ『よっしゃ!』っていう気持ちで、よだれ垂らしていきますよ。人的補償でキャッチャーは絶対に来るなよって」。それぐらいの意気込みで春季キャンプに乗り込んでくる選手はいるのか――。捕手陣の今季の躍動を、誰よりも高谷コーチが渇望している。