牧原巧が掲げる理想像「チームに近藤さんが2人いれば確実に強いじゃないですか」
“戦力外”の3文字が他人事とは到底思えなかった。「とにかく死に物狂いで。来年もダメだったら本当に終わりっていう思いでやらないといけない」。悲壮な覚悟を口にしたのは、来季5年目を迎える牧原巧汰捕手だった。
今オフ、ソフトバンクが戦力外を通告したのは計23人に上った。その中には牧原巧と同期入団の川原田純平内野手(来季は育成再契約)や、1学年下の三代祥貴内野手も含まれていた。「三代は仲が良かったですね。遠征先で同部屋になって結構話したりもして。(戦力外を)報告してくれた時には、何て声を掛けたらいいのかわからなかったんですけど、『ありがとうございました』って言ってくれて……」。プロ野球界の“常”とはいえ、胸がざわついた。
強打の捕手として神奈川・日大藤沢高から2020年ドラフト3位で入団した牧原巧。1年目の春季キャンプでは期間中にA組の練習に参加し、快音を響かせるなど、大きな期待をかけられた存在だった。だが、昨季までの3年間で1軍出場はゼロ。今季も2軍戦で27試合に出場して打率.240、2打点と結果を残すことができなかった。迎えた今オフ、ネット上には“戦力外候補”として自身の名前が取りざたされた。
「目には入りますよね。なんか勝手に(投稿が)出てきますし。悔しいというか、『俺なのかな』とか思ったり。もしかしたら……っていうのはずっとあったので。今年の成績からして、僕でも全然おかしな話じゃないとは思いました」
2020年ドラフトでホークスに入団した同期の支配下は全て高卒だった。牧原巧以外の井上朋也内野手、笹川吉康外野手、川原田、田上奏大投手はいずれも1軍を経験。「吉康は日本シリーズにも出て結果を残している中で、僕だけが(1軍戦に)出られていないので。やっぱり頑張んなきゃなっていうのは思いますね」。そして続けた。「『この世代はダメだ』みたいな。そういうのは思われたくないので」。
来季に向け、最大の武器であるバッティングに磨きをかける。「今の課題は、甘い球を逃さずに1発で仕留めること。(今年)秋のキャンプでやってきたことを固めるというテーマでやっている中で、いい感覚はあります」。理想像に掲げるのは、自身と体格的にも似ている“天才打者”だった。
「自分のタイプ的には中距離打者だと思うので。目指すところはやっぱり近藤(健介)さん。チームに近藤さんが2人いれば確実に強いじゃないですか。まだまだおこがましいですけど、そうなれたら最高ですよね」
これまでは「空気を読む」タイプだったが、なりふり構ってはいられない。「ガンガンいきます。もっとガツガツしなきゃ。がむしゃらにやらなきゃ、このまま終わってしまうので」。球界屈指の巧打者が誇る技を1つでも身に着けるため、来年は近藤を“質問攻め”するつもりだ。
「戦力外は身近に感じますよ。本当に。すごく感じます」と、強烈な危機感を口にする22歳。ネット上に書き込まれた“下馬評”を来季こそ覆してみせる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)