初HRから2軍降格伝達…失意で受けた“まさかの電話” 石塚綜一郎の運命変えた「6時間」

ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:小池義弘】
ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:小池義弘】

試合前にかけられた「最終チェックじゃない?」の言葉

 歓喜、落胆、そして驚き――。ジェットコースターの動きのように感情の浮き沈みを経験した6時間だった。楽天モバイルパークで行われた21日の楽天戦。石塚綜一郎捕手にとって忘れられない1日となった。

「7番DH」で今季3度目の先発となったこの試合は、午後6時のプレーボールだった。岩手・黒沢尻工高で3年間プレーした秋田出身の石塚にとっては“準地元”ともいえる仙台の地で躍動した。第1打席でプロ初安打となる中前打を放つと、5回の第2打席では左翼ポール際に1号ソロを運んだ。ダイヤモンドを1周し、ベンチでチームメートからの祝福を受けると、最高の笑みを浮かべた。

 喜びもつかの間、試合終了後に向かったのは監督室だった。小久保裕紀監督から告げられたのは、まさかの2軍降格。失意の中、2軍戦に合流するため神戸行きの飛行機の手配を進めていたところ、夜中に1本の電話がかかってきた。

「こういう事情になって、(1軍に)帯同することになったからって」。電話から聞こえてきたのは奈良原浩ヘッドコーチの声だった。「こういう事情」とは、石塚に代わって昇格する予定だった中村晃外野手の体調不良。「びっくりしました。そんなことあるんだって」。翌22日、神戸へ向かう予定だった石塚は札幌へのチーム便に飛び乗った。

 21日の楽天戦は「一筋の望み」をかけた試合でもあった。「晃さんが帰ってくることは分かっていたので。報道とかでも(最短)10日で戻ってくるというのは見ていたし、それ(自身の2軍降格)は確定だろうなと」。確信に近い予感があったからこそ、バットを握る手には力が入った。

ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:小池義弘】
ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:小池義弘】

「試合前は『僕がここでアピールしたら何か変わるんじゃないかな』と思っていました。スタッフさんからも『最終チェックじゃない?』って声をかけられていたので」。自分の持ちうる最大の力は出した。それでも、待っていたのは悔しい現実だった。

 小久保監督から告げられたのは、自身も十分に理解していた課題だった。「やっぱり守れないと、DHだけじゃ試合出場も少なくなると。『安心してメンバー表(の守備位置)に『3』と書けるようにしっかりやってきてくれ』と言われました。僕も守らせてもらえなかった悔しさもあったので。山川(穂高)さんも近藤(健介)さんも疲労がたまっている中、僕がDHで出るのは本当に申し訳なさすぎて……」。

 思わぬ形で1軍帯同は続いているが、今も覚悟は変わらない。「1軍にいられる限りはチャンスですし、成績を残さなきゃいけないのは変わらないので。それでも焦ることなく、自分の力を出せればいいのかなと思います」。試合前には一塁だけでなく、左翼守備にも精力的に取り組んでいる。「キャッチャーとして出るのは現状難しいと思うので」。自らの立ち位置を冷静に分析し、今できることに集中している。

 試合前の練習では山川と話すシーンがよく見られる。「技術的なことはそこまでないですけど、自分が試合に出るたびに『絶対打てよ』と声をかけてくれますね」。同じ右打者として最高のお手本を身近で見られる幸運も感じている。

「できることなら、優勝の瞬間をこのまま1軍で迎えたいですよね。そのためには打つしかないので」。今なお、崖っぷちの現状は変わらない。自らの道を切り開くため、己のバットで首脳陣の評価を覆してみせる。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)