涙の尾形崇斗が「救われました」…寄り添った又吉克樹が慰めるよりも伝えたかったこと

ソフトバンク・尾形崇斗【写真:竹村岳】
ソフトバンク・尾形崇斗【写真:竹村岳】

通算494試合登板の右腕が語る“心得”…「終わっちゃったことは取り返せない」

 右腕の目は真っ赤に染まり、腫れていた。自分自身への怒り、悔しさがこみ上げ、涙を止めることができなかった。球場から宿舎に向かうバスに乗り込む動線で尾形崇斗投手の肩に手を置き、言葉をかけていたのが又吉克樹投手だった。傷ついた後輩を1人にすることはできなかった。

 敵地ZOZOマリンスタジアムで行われた7日のロッテ戦。2点ビハインドの8回にマウンドへ上がったのは尾形だった。無失点で切り抜ければ逆転の目も残されていた状況だったが、首脳陣の目論見は外れた。安打と2つの四球で2死満塁の場面を招くと、小川に2点適時打を浴びた。1イニングを2安打3四球で2失点。試合後には2軍降格が決まった。

 これまでマウンド上で1球投げるたびに雄叫びを上げるなど、強気な投球が身上だった尾形が見せた弱々しい姿。気持ちの整理がつかないまま球場を後にしようとしていた右腕に寄り添ったのが、今年34歳を迎えるベテランの又吉だった。「本当に救われました」。2人の間にどんなやり取りがあったのか。

「慰めとかでもないですけどね。2軍でやってきたことが東京ドームで投げた時にはできていて、今回はできなかったというだけ。全部が全部ダメではないよと。やってきたことの出し方を間違えて、ああいう結果になったかもしれない。今までやってきたことすべてが無駄ではないんじゃないか。そんなことを言いましたね」

ソフトバンク・又吉克樹【写真:小池義弘】
ソフトバンク・又吉克樹【写真:小池義弘】

 そう明かしたのは又吉だった。東京ドーム、とは1日の楽天戦を指していた。7点リードの9回に登板した尾形は最速156キロを計測するなど、わずか6球で3者凡退に抑える投球を見せていた。「全部がダメではないってことが頭にあれば。リハビリ明けで、あれだけの球を持って戻ってきているので」。後輩右腕のポテンシャルを認めているからこその言葉だった。

 プロ11年で通算494試合の登板を積み重ねてきた又吉。「500試合近くやっていますしね。それなりに失敗もありましたよ」と、投手ならだれもが通る道だと説く。「僕も昔に(ああいう経験が)ありましたけど、もうやってきたこと全てがダメだと思って、別のことをやりだして悪循環になってしまったこともあったので」。先の見えないトンネルから救い出してくれたのは、“歴戦の猛者”と呼べる先輩の存在だったという。

「僕の場合はやっぱり岩瀬(仁紀)さんとか浅尾(拓也)さんとか。僕より数倍も経験のある人からの一言で楽になったこともありましたよ」。自身を成長させてくれた存在。その恩を、今は後輩に還元できたらいいと思っている。

「優しい言葉をかけたからって、(悔しさが)ゼロになるわけじゃない。プロで大事なのは次なんで。終わっちゃったことは取り返せない。あとは本人がどう感じたかの話なので」。決して“いい人”になりたいわけではない。「ただ単に1人で悶々としているくらいだったら、僕が経験したことを話して。それが引っかかるならそれでいいし、引っかからなくても1人でバスに向かうよりは全然いいかなって」。慰めよりも大事なこと。又吉が尾形に見てほしかったのは、悔しさの先だった。

「やってきたことは間違いないと言ってもらえたことが、すごく嬉しかったというか。それを言ってもらえたことがすべてです。だから、それを信じてやるだけだなって」。又吉の言葉を受け取った尾形は、現在ファームでがむしゃらに汗を流している。

 投球フォームの見直しは「全く手ごたえはないです」と口にする。「又吉さんと話して悩むことから逃げちゃいけないって。今は悩むことに集中しています」。現実から目を背けることなく、真正面からぶつかっている。

「又吉さんと技術的なことは話していましたけど、あんなに深く話したことはなかったので。初めてそう言ってもらえて、もちろん嬉しかったですし。ぶれることなくやっていけと言ってもらえたのは救いでしたね」。尾形が再び這い上がるのには莫大なエネルギ?が必要だろう。それでも、又吉からもらった言葉は何よりもの「エンジン」になるはずだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)