斉藤和巳4軍監督が前田悠伍に説く“エース道”「背中を見せられる選手に」

ソフトバンク・斉藤和巳4軍監督【写真:竹村岳】
ソフトバンク・斉藤和巳4軍監督【写真:竹村岳】

「俺からはそういう話ばっかりよ」伝えるのは技術ではなく…

 未来のエースに伝え続けていることがある。かつてチームの命運を背負った“負けないエース”だからこそ伝えられる大切なこと。斉藤和巳4軍監督は、ドラフト1位ルーキーの前田悠伍投手に、エースとしてあるべき姿を説いている。

 7月4日に行われたウエスタン・リーグの広島戦(由宇)で、前田悠は4イニングを投げて1安打無失点5奪三振と好投した。翌日、ファーム施設のある筑後に戻った前田悠に「昨日、ナイスピッチングやったな」と、声を掛けたのが斉藤和4軍監督だった。前田悠にとっては「多分、初めて」という、お褒めの言葉だった。

 斉藤和4軍監督はこう明かす。「確かにあまり投げることに関しては言うことがないからね。それはコーディネーターとかピッチングコーチに任せているから。それ以外のところで話すことが多いし、まだずっと物足りなさを感じていた中で、なんか今まで見た中で1番、悠伍らしいピッチングなんかなと思って」。前田悠自身、プロ入り後で最も手応えを感じた登板。斉藤4軍監督の目にも同じように映っていた。

 ここまで2軍で6試合に登板して1勝1セーブ、防御率1.46の好成績を残している前田悠。結果としては申し分ないものを披露していたが、斉藤4軍監督は“あえて”褒めないようにしていたというわけではない。監督として、技術面での指導はコーチやコーディネーターに任せていることに加えて、前田悠に求めるレベルを考えると「褒める」ところまで至らなかった。

「まだまだ1軍で勝つっていうレベルで見ると、物足りなさはあるけど、これがコンスタントに出てくれば、1軍にはすぐ行くやろうなっていう感じがする。まだまだスケールアップしないとアカンし、悠伍には『2軍で抑えて満足していたらあかんぞ』『その先をちゃんと見据えてやらなアカン』って話をしている」。活躍すべき舞台は1軍。言葉の端々から前田悠への期待の高さが伝わってくる。

 斉藤和4軍監督に託されているところもある。「4軍扱いではあるけど、普通にいたらここにいる選手じゃない」としながら、日々、前田悠に伝えていることがある。

「この間も呼んで話はした。俺がそこまで言えるところでもないけど、プロ野球選手として、人として、いずれ1軍でバリバリやらなアカン投手の1人だから、もしそういう選手になった時に、いい手本になったり、投手陣を引っ張っていける、ちゃんと背中を見せられるような、そういう選手にならないとアカンよ、と。そのために、今ここでいろんなことを覚えていく。人としての目配り、気配りもそうやし、ファンから愛されるだけじゃなく、チームメートやスタッフからも愛される選手になってほしいって思っているから」

 かつてホークスの投手陣を背中で引っ張ったエースだからこその言葉。「俺からはそういう話ばっかりよ」。愛情たっぷりに語る斉藤4軍監督の表情が綻ぶ。この先、“エース道”を歩んで行くべき前田悠に送る助言だった。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)