吐露する複雑な感情…仲田&川村の開幕1軍に「悔しい」 正木智也の胸中と不振のワケ

ソフトバンク・正木智也【写真:飯田航平】
ソフトバンク・正木智也【写真:飯田航平】

オープン戦で16打数無安打に終わり2軍落ち「すごく悔しいです」

 昨年は悔しさだけが残る1年だった。巻き返しを目指して臨んだ今季は2軍で開幕を迎えることに。「開幕1軍を1つの目標にしていたので、すごく悔しいです」。唇を噛み、悔しさを滲ませるのは正木智也外野手だ。キャンプ終盤にA組に昇格するも、オープン戦は16打数無安打。オープン戦期間が終わる前に2軍落ちを言い渡された。

 正木は昨季、プロ2年目で初の開幕スタメンを勝ち取った。藤本博史前監督から「50打席与える」と期待をかけられていたが、18打席立っても安打は出ず。50打席を立つ前の4月19日に登録抹消された。6月3日に再登録され、翌4日の広島戦(マツダスタジアム)でシーズン初安打を放ったが、2週間も経たぬうちに再び降格。その後は右肩の怪我で長いリハビリ生活を送ることになった。

 リハビリ組に合流した直後は、さすがに意気消沈した様子もうかがえた。ただ、徐々に前を向き、悔しさを払拭するべく黙々とトレーニングに汗を流してきた。昨年11月から12月にかけて台湾で行われた「アジアウインターリーグ」で打率.351、2本塁打と好成績を残した。そこで感じた手応えをより確かなものにすべく、オフもほとんど休みなくバットを振り続けてきた。

 右肩の状態も考慮されてB組で迎えた春季キャンプでは序盤から状態の良さを感じさせた。練習試合で本塁打を放つなど、アピールにも成功。キャンプ中にA組参加を果たし、着実に段階を上げていた。だが、開幕1軍入りを賭けたオープン戦で壁にぶち当たった。チャンスを与えられるも、結果が出ずに、2軍落ちとなった。

「キャンプ中はすごく良くて、去年のウインターリーグとかオフ期間でずっとやってきたことが上手く出せたかなと思うんですけど、ちょっと意識してることをやり過ぎたというか、ちょうど良かったものがやり過ぎて逆に良くなくなってしまったみたいなことがあったので、それをもう1度見つめ直しているところです」

ソフトバンク・正木智也【写真:飯田航平】
ソフトバンク・正木智也【写真:飯田航平】

 手応えを感じていたことは間違いない。ただ、オフから取り組んできたバットのヘッドの使い方を意識し過ぎるがあまり、徐々に打撃の状態が崩れていった。「ちゃんとヘッドが使えるように意識して、ヘッドの波を使って打つことを意識してやってきました」。ヘッドをなるべく返さず、打球角度を上げるようにしてきたことで「逆にヘッドが返らなすぎてボールに力が伝わっていなかった。バットとボールが滑っていたというか、切るような感じになっていた」という。

 昨年と今年では、また不振の色合いが違う。

「正直、去年のシーズンはちょっとメンタル的なところもあって、ピッチャーに向かえていなかった。オープン戦でヒットは出なかったですけど、今年は普通に打席の中ではボールも見えていたし、打ちたい球も打てていたので、あとは技術だけかなと思っています。技術をしっかり固めるということを今やっています。打てないのはメンタルじゃなくて、やっぱり技術だと思う。技術がないから打てないし、技術がないから自信を持って打席入れない。去年も『そうだな』って思ったんで、とにかく技術を上げる、自信を持って打席に入るということを意識してやっています」

ソフトバンク・正木智也【写真:飯田航平】
ソフトバンク・正木智也【写真:飯田航平】

 受け入れるのは弱さだけではない。実力不足を受け止め、今、心身ともに改めて鍛えようとしている。

 複雑な思いもある。自身は開幕1軍を逃したが、育成で入団した大卒同期の仲田慶介内野手、川村友斗外野手が支配下に昇格し、開幕1軍を手にした。正木にとって、2人は公私ともに仲が良く、日々、切磋琢磨し合ってきた存在でもある。

「支配下になったのはすごく嬉しかったですし、支配下になる前から、一緒にご飯とか食べていても『支配下になりたいなりたい』っていうのはずっと近くで聞いていたので、それが叶って嬉しいんですけど……。でも、アイツらは1軍に残ってやっている。すごく悔しいですし、負けたくないなって気持ちはすごくあるので……。今は負けている立場だと思うんですけど、ここからしっかり追い越していきたいです」

 ただ、そう語る表情に暗さはない。「今はやりたいこともしっかりありますし、落ち込んでいてもしょうがない。あれがオープン戦でよかったなって思って」と前向きに捉えられるようになったのも、昨年の経験があったから。「まだまだ全然、悲観する部分はないと思うので、ここからシーズンで打てるように巻き返していけるように頑張りたいなと思います」。穏やかな表情でそう語る姿が頼もしくもあった。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)