上茶谷が感謝する出来事「マジで陸のおかげです」
「僕の中では、あのアドバイスがなかったら……」。今シーズン、キャリアハイとなる8勝を挙げ、日本一連覇に大きく貢献した上茶谷大河投手。戦い抜いた1年間を振り返り、「一番感謝している人」として真っ先に名前を挙げたのは、渡邉陸捕手だった。リリーフとして開幕1軍入りし、シーズン途中からは先発も務めるなど、36試合に登板した右腕。「マジで陸のおかげです」と明かすのには明確な理由があったーー。
上茶谷が今季初先発し、1406日ぶりの先発勝利を挙げた7月16日の日本ハム戦(エスコンフィールド)から、渡邉と5試合連続でバッテリーを組んだ。「僕が打たれたら、陸は一緒に抹消されるかもしれない」。そんな覚悟を胸に臨んだ5試合。2人でつかんだ3つの白星は、積み重ねてきた準備の結晶だった。
先発でバッテリーを組んだことへの感謝なのか、と尋ねると右腕は少し違う答えを返した。「それはもちろんあります。でも、陸が新しい自分を見せてくれたんです」。今シーズンの上茶谷の運命を変えたと言っても過言ではない、渡邉とのやりとり。「でも、あいつは多分覚えていないです」。それは3月の筑後のブルペンで交わした、“2人だけの会話”だった。
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この先で分かる3つのこと
ブルペンでの「お遊び」が生んだ、運命を変えた1球とは
ためらう上茶谷を動かした、渡邉陸の「強気な一言」とは
データも証明!大躍進を支えた「精神安定剤」の正体とは
「実は、これまであまり使っていなかったスライダーを投げるようになったのは、陸がきっかけなんです」
分岐点になったのは、3月17日に行われたファーム・リーグ広島戦(タマスタ筑後)の試合前だった。「ブルペンで僕がちょっとふざけて、スライダーを腕の角度を下げて投げたんですよ」。それまでカットボールは持ち球にあったものの、スライダーはほとんど使っていなかった。本当に“軽い遊び”のつもりで投じた1球だったという。
「そしたら、陸が『あのスライダーって使わないんですか?』って言ってきたんです。でも『いやいや、お前アカンやろ』って。ストレートと違う投げ方で投げたら、コーチとかにも何か言われそうじゃないですか。『お前、怒られるってー』と言っているのに、陸が『試合で使いましょう。いけます、いけます。本当にあれ投げてください!』って言ってきて」
渡邉の言葉に背中を押され、その日の試合で実際にスライダーを投じた。結果は7回1安打無失点の快投。「(腕の角度を下げるのは)最初は控えめにやっていたんです。そしたら思いのほかバッターのリアクションが良くて。そのスライダーでポンポン打ち取れるんですよ」。投げるたびに手応えが増していった。何気なく試したボールが、思いもよらぬ可能性を導き出した。
「それからピッチングがめっちゃ楽になって。陸に『あれマジでいいな』って言ったら、『ほら、言ったじゃないですか』って。たぶん、アイツは覚えていないくらい軽い感じだったんですけど。シーズンに入っても、スライダーがめちゃくちゃ効果的に使えたんです」
投球を変えたスライダー、数字にも表れた進化
シーズン中、実に3種類のスライダーを投げ分けていたという。「その試合以来、逆に色々なところからスライダーを投げ出して。上から、斜めから、横から。色々なスライダーが投げられるみたいな感じになりました」。3月17日を境に、スライダーが「今年の一番良いボール」へと成長を遂げたという。
その変化は数字にも表れている。「株式会社DELTA」によると、今季の上茶谷の投球に占めるスライダーの割合は28.7%。2024年は11.3%、2025年は12.5%だったが、2倍以上に増加した。さらに、スライダーによる失点抑止力を示す「Pitch Value」は10.4を記録。パ・リーグの投手ではトップの数字だった。
「決め球でも使えるようになったし、使う局面は増えました。そういうピッチングができるようになったのは、マジで陸の適当なアドバイスのおかげ。でも多分、ボールを受けて『いける!』と普通に思ったから言ってくれたと思うので」
上茶谷が笑顔で明かした渡邉への感謝ーー。「僕の中では今年、ピッチングをしていて楽になったし、スライダーが精神安定剤になりました」。あの一言がなければ、チームを支えた右腕の姿も違ったかもしれない。来シーズンも2人のバッテリーがどんな化学反応を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。
(森大樹 / Daiki Mori)