ホークスがキーマンに挙げていた牧秀悟の存在
怒涛の4連勝で「SMBC日本シリーズ2026」を制し、2年連続の日本一を成し遂げた。最大7試合の短期決戦を勝ち抜くうえで、ホークスが最大のキーマンとしてマークし続けたのがDeNAの牧秀悟内野手だった。
通算144本塁打を誇る主砲に対し、戦前にアナリストが徹底分析の末に導き出した綿密な包囲網。だが、今年5月までチームメートだった山本祐大捕手がマスク越しに下したのは、机上のデータを凌駕する「現場の直感」だった。データと直感、双方からの思惑が交錯し、導き出された「理想的な打ち取り方」とは――。頂上決戦の裏で繰り広げられた、知られざる頭脳戦に迫る。
24日に横浜スタジアムで行われた初戦では、1点リードの8回に松本裕樹投手が牧に同点ソロを被弾した。初戦から3試合連続で「申告敬遠」という采配を振るったホークスベンチ。決着がついた28日の第4戦(みずほPayPayドーム)でも5回2死一塁で牧を迎え、先発・前田悠伍投手から鈴木豪太投手にスイッチ。小久保裕紀監督が「シーズン中なら投げさせている」と語るほど、徹底的なマークは最後まで緩めなかった。
結果的に14打数3安打、1打点に封じ込めた。ホークスは一体、牧に対してどのような対策を立てていたのか。アナリストチームと、捕手陣が“共有”していた明確なプラン。そして、誰よりも古巣を知る山本祐が先入観を捨て、グラウンドの呼吸から導き出した“主砲封じの真実”を紐解く――。
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この先で分かる3つのこと
牧秀悟を崩すために…アナリストと山本祐大が描いた配球図
直球封印…細川コーチが明かす松本裕樹の「理想的な抑え方」
先入観を捨てた選択…接戦の中で捕手陣が導いたリスク回避策
山本祐大と吾郷アナリストが語っていた具体的な対策
「牧選手の打ち方が今年変わっているのは明らかなので、ポイントは『高めの真っすぐが通るかどうか』だと思います。その他にもスイングが強い打者が多い中で、うちの投手陣の強い真っすぐでどれだけ押せるか。2年前の日本シリーズでは桑原(将志)がMVPを獲るほどやられてしまいましたが、僕は5戦目で牧選手に打たれたホームランが大きかったと思っています。その場だけではなく、全体を左右する力を持っている選手だと思うので」
日本シリーズが始まる前、そう語っていたのは吾郷伸之チーフアナリストだ。ホークス投手陣が誇る力強い直球。今シーズン、牧の成績を徹底的に研究して“ウィークポイント”を洗い出した。その分析も含めて「高め」に手を出してくれば牧の打撃を崩していけるはずだと考えていた。
アナリストチームの見解は当然、捕手陣にも共有。今年の5月までDeNAに在籍していた山本祐も同じ考えを示していた。
「インコースのやや高め。そこが鍵になると思いますね。もちろんリスクはありますし、行きづらさはあります。ただそこに突っ込むことができれば(攻めの幅は)広がっていくと思うので、意識したいところです。実際いいバッターなのは間違いないですし、そこ(インハイ)ばかりを行くわけにもいかない。結果的にそういう攻めをして『抑えられました』というのがベストだと思います」
事前に決めていた方針や、自分自身の先入観に捉われてはいけない。あくまでも「結果的に抑えられました」となるように、客観的な視野もしっかりと頭に入れていた。「僕はベイスターズを一番知っているかもしれないですけど、一番知らないので。対戦経験としては他の選手よりは少ない。その中で積極的に勝負できたらと思います」と、山本祐らしい意気込みを口にしていた。
細川亨コーチ「あれが理想的な打ち取り方でした」
牧との14度の対戦で、ホークス投手陣が投じたのは52球。捕手が腰を浮かせて高めに構えたのは、わずか3球だった。もっとも警戒していたバッターとの対戦。細川亨バッテリーコーチは「高めだけじゃなかったですね」と振り返り、“答え合わせ”をしてくれた。
「最後のが一番象徴していましたね。マツの打ち取り方がよかったと思います」
細川コーチが挙げたのは第4戦、8回1死での対戦。松本裕は初戦に155キロの直球をバックスクリーンに運ばれていたが、この対戦で投じたのは変化球のみだった。3ボール1ストライクから、最後は外角のスライダーに手を出して一飛。「あれがキーポイントだったし、理想的な打ち取り方でした」と細川コーチも頷いた。
吾郷アナリストも「キーマンは牧選手だったし、3試合連続で申告敬遠もしましたよね。そのあたりは、グラウンドにいる選手たちとベンチの考えも一致していたんだと思います」と振り返る。そのうえで、事前に想定していた通りの攻め方にならなかったのも事実。接戦という展開の中、捕手陣が慎重に試合の“流れ”を感じ取っていたという。
「高めにはスイングをかけてきていたので、まったく効かなかったわけではないと思います。ただこれだけ点差がないと、高めにはどうしても長打のリスクがあるので。バッテリー全体として、戦前よりも『丁寧に投げたほうがいいんだな』というのが全員の見解でした。だから祐大だけじゃなくて、海ちゃん(海野隆司捕手)もそんなに“冒険”しなかったと思います」
内角と高めには長打のリスクがある。シリーズを通して、手に汗を握る接戦が続いた。ホークスバッテリーはインハイを突くことで牧の打撃を崩すのではなく、目の前の1打席でもっともリスクが低い球を選択し続けた。その“象徴”だったのは、松本裕が打ち取った一飛だったというわけだ。「それだけの技術がうちにはあったんだと思います」と吾郷アナリスト。マスクを被り、実際に対戦してみて抱いた“直感”を優先し、牧を封じ込めた。
古巣との頂上決戦を制して、日本一を掴み取った山本祐。同学年でもある牧との対戦について「1発は打たれましたけど、なんとかその後は打たれずにいくことができた。信じてよかったですし、ピッチャーに感謝です」と振り返った。緻密な対策、グラウンドで抱いた直感、そして要求に応えられるだけの投手の技術。すべてが噛み合って、掴み取った日本一だった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)