ベンチ裏でバッタリ…千賀の言葉に前田悠の答えは
紙吹雪が舞う本拠地、歓喜の余韻が残ったベンチ裏。大一番を投げ抜いた前田悠伍投手の顔から、張り詰めていた緊張がふっと解けた。視線の先にいたのは、自主トレをともにした千賀滉大投手(メッツ)。待望の再会を果たした左腕が尊敬してやまない師匠へ口にしたのは、9か月前と“まったく同じ言葉”だった。
CSファイナルステージを突破し、日本シリーズ進出を決めたホークス。左腕は16日の第3戦(みずほPayPayドーム)に先発し、5回2失点(自責1)でポストシーズン初勝利を挙げた。サングラスをかけ、スタンドから見守っていた千賀の目の前で成長した姿を見せつけた21歳。NPBで通算87勝を挙げ、海を渡った「大先輩」は古巣の戦いを見守ると、ファンに手を振ってグラウンドを後にした。
試合後のセレモニーが終わり、前田悠の囲み取材が終了したのは午後9時50分だった。千賀がスタンドにいたのには気が付いていたが、「会ったり話したりはしていないですね。(周東)佑京さんから『来ている』というのは聞いていましたけど」。特別なやり取りをしたわけではない。そう明かしたわずか2分後、ベンチ裏でバッタリと顔を合わせた。
「ナイスピッチ」――。
千賀からかけられた労いの言葉に、21歳の若鷹は純粋な笑顔でこう答えた。
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この先で分かる3つのこと
千賀滉大との再会で前田悠伍が語った謙虚すぎる第一声とは
「中学生が150キロ」米国自主トレで前田が受けた衝撃
背番号41継承…千賀滉大が語る前田悠伍の貪欲な素顔とは
米国で見た衝撃「年下のピッチャーが150キロ近く」
「いやいや、ショボいです。150キロ出ていないので」
今季は自己最速の151キロを計測したが、この日の最速は148キロ。恩師の目の前だからこそ、自身に対する評価も厳しかった。そこから千賀の「またゆっくり話そうか」という言葉で、短い会話は締め括られた。師匠と弟子。再会を果たした2人の目は、キラキラと輝いていた。
「ショボい」という言葉は、左腕にとって偽りのない本音だ。前田悠は9か月前にもまったく同じ言葉を口にしていた。
昨年12月から千賀のもとで自主トレをスタートさせた左腕は福岡、米国、沖縄を転々とした。すべてを終えてタマスタ筑後に戻ってきたのが1月25日。「本当にレベルが違いました。まだまだ先の世界があるし、『自分はショボいです』と話はしていました。ほんまに底辺です」。自分自身の現在地を思い知り、さらなる成長を誓った2か月間になった。
かつての“ショボい”自分から見事に飛躍を遂げ、12勝を挙げてパ・リーグ3連覇に貢献。チームにとって欠かせない存在となった今も、異国の地で目にした景色が忘れられない。
「今年アメリカに行ったじゃないですか。それがやっぱり大きかったですね。中学生でも150キロ近く投げる子もいましたし、年下でもえげつない球を投げるピッチャーばかりだったので。僕もこんなところで満足していたら『プロでちょっとだけ投げた選手』で終わってしまう。そういった隙は自分の中から出てこないようには意識していますね」
千賀滉大が明かしていた前田悠伍の貪欲な姿勢
千賀にとって今季は渡米して4年目のシーズンだった。前田悠、大竹風雅投手と自主トレをともにし、周東佑京外野手が5年契約を結んだ際には「(メジャーに)来ねえの」と連絡を取るなど、ホークスナインとの親交は今も深い。
なぜこんなにも後輩たちを気に掛けるのか。率直な疑問に、千賀は照れ笑いを浮かべながら理由を明かした。
「そんな見ているつもりはないですけどね。お願いされたからですよ。施設的にも、トレーニングやリハビリとかいろんな事情を含めたら一番やりやすいのが福岡。そこでホークスが(タマスタ筑後を)使わせてくれるということだったので、借りている感じですね」
謙遜しながら語ったホークスとの“つながり”。もちろん、面倒見の良さだけで後輩を受け入れたわけではない。前田悠の貪欲な姿勢は、世界最高峰を知る右腕の心を動かしていた。
「悠伍は今の自分に何が必要なのか、何が足りないのかを分かっている子だから。そこに対して、どんなことがあればこれからもっと成長していけるのか。それを僕のところにもっと探りに来たという感じです」
千賀は2023年に海を渡り、2024年から前田悠が背番号41を受け継いだ。背番号も大きな共通点だが、それ以上に2人の間で共鳴しているのが野球に対する情熱だ。21歳の若鷹が口にする感謝の思いは、どこまでも深い。「偶然」といった言葉では片付けられないほどの強い縁が、千賀と前田悠を結んでいる。
「今になって、41番でほんまによかったなと思っているんです。もし僕が他の背番号だったら、千賀さんにとっても“ただの後輩”だったと思います。目をかけてもらえなかったかもしれないですし、プロになった時は千賀さんとこういう関係になるとも思っていなかったので」
恩師の前でCS初勝利を掴んだ前田悠は、自信に満ちた表情で言い切った。「少しでも千賀さんに追いつけるように、最終的には追い越せるようにやっていきたいです」。熱い野望が枯れることはない。2人が目指すのは、プロ野球選手の“高み”だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)