5回のピンチ「もう1つ低ければ結果も変わった」
21歳の闘争心がほとばしる。試合を左右する大きなピンチで、一歩も引くことはなかった。マウンドで見せる圧倒的な立ち姿こそ、前田悠伍投手の真骨頂。一切の迷いを捨て去り、全力で立ち向かうことができたのは、大切な気持ちに気づかせてくれたある人物の“一言”があったからだ。
16日に行われた日本ハムとのCSファイナルステージ第3戦(みずほPayPayドーム)。左腕自身にとってポストシーズン初登板初先発だった。初回に先制点を献上した前田悠だが、最大の踏ん張りどころは5回にやってきた。無死一塁で一塁手の正木智也外野手が失策を喫し、無死二、三塁にピンチが広がった。ここから、左腕のギアはグッと上がっていた。
奈良間を三ゴロに仕留めると、郡司は3球三振。2死までたどり着き、水野に対してもすぐに追い込んだ。最後は二塁への適時内野安打となったが、「絶対に打たせない」という集中力がひしひしと伝わってくるシーンだった。
「1点も取られないようにという意識ではいましたけど、最後に点を取られたのはまだまだ力不足だなとは感じました。ツーアウト、ツーストライクまでいきましたし、(ラストボールが)もう1つ低ければ結果も変わったと思います。正木さんのエラーという形で進塁しましたけど、絶対に自分が取り返すという気持ちでした。逆に攻めていけたことが、最少失点でしのげた理由なのかなと思います」
直後に正木が逆転2ランを放ち、CS初勝利が転がり込んできた。レギュラーシーズンではチームトップタイの12勝。負けられない短期決戦で掴み取った白星もまた、21歳の自信へと変わるはずだ。
誰よりも負けず嫌いで、ピンチでも物怖じしないことが最大の強み。そんな左腕が1度だけ、相手の勢いに「受け身」になってしまったことがあった。帰りのタクシーで、2人きり。スタッフからかけられた言葉は、あまりにも図星だった。「正直、ビビったでしょ?」――。
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この先で分かる3つのこと
帰りの車内で図星…裏方さんが前田悠伍に見抜いた心理状態
アップ時から異変…岡本SCが明かす「いつもと違った雰囲気」
「ワクワクしている」小久保監督も感銘を受けた前田悠伍のマウンド姿勢
8月20日の日本ハム戦…帰りのタクシーで「ビビった?」
「岡本さん(正靖1軍ストレングス&コンディショニング)と一緒に帰ったんですけど、『今日なんか入りから違ったでしょ?』と言われたんです。『普通でしたよ』と言ったら『俺は受け身になっているように見えた』と。確かに試合の中でも最初からコースぎりぎりを狙って、絶対に浮いたらダメだとかなり気をつけながら投げていたので。『確かにな、よく見てくれているな』と思いましたね」
振り返ったのは8月20日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。試合は栗原陵矢内野手の同点満塁弾で引き分けに持ち込んだが、左腕は5回3失点という結果に終わっていた。19日の同戦では6点差をひっくり返されてサヨナラ負け。自分自身が気づかないところで、相手打線が前夜に見せた勢いに押されてしまっていた。
前田悠が先発した20日の一戦、試合前の姿は岡本SCの脳裏にも焼き付いている。プレーボールまで残り40分。セカンドアップを始めてた時から「いつもと雰囲気が違ったんですよね」という。「それくらいの時から引いているように見えたので。立ち向かっていけるように『ノーヒットノーランしてこいよ』と言いました」。大記録を狙え――。そんな言葉で、21歳の背中を押していた。
栗原の満塁弾もあり、4時間34分の熱戦は引き分け。試合後に前田悠は球場に残り、ウエートトレーニングに励んでいた。帰りのタクシーの後部座席で2人きりになり、岡本SCからこう切り出した。
「正直、ビビったでしょ?」
一歩引いて選手を支える裏方さんという存在。その言葉には当然、岡本SCなりの真意がある。
「基本的に僕も言わないようにしていますよ。ただ2人きりになったので、あの場は正直に言っていいのかなと。負けたら翌日にでも聞こうかなとは思っていたんですけど、試合には負けなかったので。フィジカルの面で何かが悪かったわけではなかったし、後手になっていたのは『アップの時から見えていたよ』という話はしました。悠伍は相手を見下ろして、自信満々に投げるタイプ。『ノーヒットノーランしてこい』と言ったのも、そういう意味でした」
どんな時でも相手に立ち向かっていく。投手としての純粋な闘争心に、改めて気付かされた言葉だった。前田悠にとって岡本SCは心を開く存在。「『いつもはマウンドでも余裕があるんだから』と言ってもらえましたし、いろんなフィードバックをしてくださるので。そういう意味でも、とても勉強になった試合でしたね」。今季登板したのは19試合。1軍の舞台で得た経験を糧にして腕を振ってきた。
初のCS登板「雰囲気もすごく良かったです」
絶対に負けられない短期決戦。16日のCSファイナルステージ第3戦の試合前、小久保裕紀監督から声をかけられると「ワクワクしています!」と答えていた。5回のピンチで堂々と投げ切る姿には、指揮官も「大きく見えました」と厚い信頼を寄せる。絶対に、ビビらない。たくさんの支えに背中を押されて、左腕の“らしさ”が存分に発揮された一戦だった。
「雰囲気はすごく良かったですし、その中でも投げられたのはこれからに活きると思います。日本シリーズもあるので、そこに向けて調整していきたいです」
野球に真っすぐと向き合い、勝つためだけの妥協なき準備を続けてきた。3年連続の日本シリーズ進出を決め、セ・リーグ王者と戦うことになる。感謝の気持ちを胸に、前田悠伍が頂上決戦のマウンドに立つ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)