ドラフト5位から始まった松本晴の“下克上”
「プロに入れば順位は関係ないですね。それはマジで思います」。4年目にしてキャリアハイの結果を残し、リーグ3連覇に貢献した松本晴は、自らの歩みを静かに振り返った。幼い頃からエースではなかった。2022年ドラフト5位で入団した左腕の道のりは、まさに“下克上”だ。
今季は開幕からローテーションを守り、22試合に登板して12勝3敗、防御率2.66。125回1/3を投げて126三振を奪うなど、高いポテンシャルを見せつけた。「来シーズンは規定投球回をクリアして、全体的に他の数字も上げていかないと」。着実に成長を遂げてきた25歳の心は熱く燃えている。
近年、育成ドラフトでの入団から2桁勝利を挙げたプレーヤーは千賀滉大投手をはじめ石川柊太投手、大関友久投手がいる。一方で支配下ドラフトにおいて「5位指名以下」から10勝を挙げたのは2015年の攝津正まで遡り、左腕では球団初の快挙となった。「リアルにボッコボコにされた」という絶望からのスタート。心が折れかけた山川穂高内野手の一振り。挫折を乗り越え続けた、泥臭い左腕の軌跡に迫った――。
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この先で分かる3つのこと
プロ初先発でボコボコに…松本晴が抱いた強烈な恐怖とは
「きた」と思った渾身直球…山川穂高に折られた心の真実
2桁勝利も「10勝したから?」松本晴が語る意外な本音
2023年のプロ初先発は「リアルにボッコボコ」
「高い順位じゃなかったのは、僕的にはやりやすかったですね。上位だとどうしても注目されるし、1年活躍しないだけでいろんなことを言われるじゃないですか。そういうプレッシャーはまったくなかったですね。頑張ったら『すごい』とは言われますけど、結果を出せなくても『5位だしな』という扱い。それが大きかったし、楽でした」
ドラフト1位は“その年の顔”。新人を象徴する存在として、大きな注目を受けるのがプロ野球だ。同期入団には2位に大津亮介投手がいた。「大津さんは即戦力。1年目から中継ぎとして1軍で投げていたじゃないですか。それを見ながら『すごいな』と。僕は2軍で投げながら『これじゃ無理だな』と思いましたし、そこから取り組みが変わりましたね」。5位という己の現在地から、上だけを見据えて努力を重ねてきた。
ルーキーイヤーだった2023年はわずか3試合登板にとどまり、防御率7.11。プロ初先発は同年8月27日の楽天戦(楽天モバイル最強パーク)で、4回途中5失点だった。打者19人を相手に、奪った三振は「1」。この時に抱いた感情は、今も色濃く覚えている。
「リアルにボッコボコにされたので。もう、真っすぐを投げるのが怖かったんですよね。空振りすら取れなかったので。まずは三振を取れるようにならないといけないとめっちゃ思いました。練習して2年目のキャンプに自信を持って入っていったら、紅白戦で山川さんに簡単に打たれました。渾身の真っすぐで(リリースした時も)『きた』と思ったんですけど、そこでまた心が折れて。もっと成長しないといけないし、挫折と練習の繰り返しです」
小学校の頃もエースではなく「3番手」だったという。どんな時も高い目標を掲げて、這い上がってきた。「楽天戦の後も、別に『もう無理や』という感じではなかったですね。『じゃあこのトレーニングをしよう』とか、成長すればいいだけなので。プロに入る前から少しずつ力をつけて、体も大きくなって……。掴み取ってきました」。自らの現在地と、必要な要素を冷静に見極める。時間をかけながらも、一歩ずつ階段をあがってきた。
テーマに掲げた変化球の向上…今季は「カットボールです」
まず着手したのは、変化球を1軍レベルにまで上げること。直球とスライダーが基本的な球種だったところに、3年目の2025年はカーブとチェンジアップを加えた。さらに2桁勝利を挙げた今季はカットボールを追加。先発投手としての武器を増やし、しっかりと結果につなげてみせた。「去年の僕のスタイルに『カットボールがある方がバッターは嫌だよね』と。毎シーズンごとにアップデートはできているので、これ以上、増やしはしないと思います」。
まだポストシーズンの戦いを控えているが、来季は5年目。ここからは1つ1つの球種の精度を上げていく段階だ。足元を見つめながらも、理想像に向かって真っすぐに走り続けている。
「成績に納得はしていないですけど、去年の90イニングから今年は120イニングを超えることができた。確実に成長はあると思いますし、そこはポジティブに捉えられると思います。ただ正直、『10勝したから?』という感じですけどね」
まずは今シーズン、日本一を掴み取るために左腕を振る。成長を止めない松本晴の存在が、どこまでも頼もしい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)