小林樹斗が構想外から這い上がった1年
もう一度NPBの舞台へ戻るために――。自らの“欲”も捨て去って、死に物狂いで戦った1年だった。昨オフに広島を構想外となり、四国IL徳島を経て、今季5月にホークスへ加入した小林樹斗投手。「自分の中ではっきりと決めたことだったので」。退路を断って独立リーグへ飛び込んだ時、自分の胸に”ある誓い”を打ち立てていた。
智弁和歌山高から2020年ドラフト4位で広島に入団した右腕。故障の影響もあり5年間で1軍登板2試合にとどまると、2025年オフに構想外通告を受けた。そして今季は1月から徳島でプレー。5月下旬にホークスと育成契約を結ぶと、7月27日には念願の支配下登録を勝ち取った。ここまで1軍で10試合に登板して防御率3.07、勝ち負けなしの1ホールドをマークしている。
退路を断った挑戦から、わずか半年で味わったリーグ優勝の瞬間。「今年途中から来て、まさかあの優勝の輪にいられると思っていなかったです」。歓喜のビールかけではコーチや先輩たちから容赦ない祝福を受けた。実は23歳にとってこの瞬間が約8か月ぶりの“アルコール”だった。春先から始めた「禁酒」――。一度はNPBを去った男が、この1年にかけた強い覚悟があった。
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この先で分かる3つのこと
激変の要因となった禁酒で起きた「身体の劇的変化」とは
引退覚悟の右腕を救った「恩師からの一言」とは
約8か月ぶりの歓喜…ビールかけでの「意外な感想」
「独立からもう一度この世界に戻りたいと思って、今年1年が始まったので。自分の中で必要がないと思うものはやめて、どんどん省いていきました。やめたから今の結果があるのかなとも思うくらいで。今もし、お酒を飲んで野球をしていたら……と想像すると、ちょっとしんどいかなと思います」
以前はさまざまな銘柄のウイスキーを集めるほどで「ハイボール系が好きでした」。だが、1月中旬、独立リーグでのプレーを決めたことをきっかけに酒を絶つと決めた。これまで飲んでいたハイボールは、ウーロン茶やコカ・コーラに変わっていった。
「先輩とのご飯の場で、周りを見て『飲みたいな』と思うこともありましたけど、一度決めたことだったので。その結果として体の状態が良くなって、今までよりも圧倒的にウエートの量を増やせたんです。もうルーティンになっているので、今のところは戻す予定もないです」
転機となった独立入り…背中を押した指揮官の言葉
広島から構想外通告を受けて、移籍先を探していた中で徳島への入団を決断した。「クビになって、『次どうしよう』と考えている時期は、今までにないくらいに悩んだんです」。だが、心の奥底では「高いレベルで野球がやりたい。もう一度NPBで勝負がしたい」という気持ちがあった。NPB以外からのオファーも届く中、進路に迷う右腕の背中を押してくれたのが、母校・智弁和歌山高の中谷仁監督だった。
「独立に行く決断をする直前まで、本当にこの決断で良いのかなってギリギリまで迷っていたんです。でも、監督から『本気でもう一度NPBに戻りたいなら、腹を括って1年死ぬ気でやるしかないぞ』と、直接連絡した時に言葉をもらったんです。気持ちが固まったのは、その時でした」
広島時代の5年間は、1軍登板は2試合のみ。2年目に右肘の疲労骨折をして以降は思い通りに投げられない日々が続いた。「野球ができない期間が、5年の中で2年ぐらいあった」。だが、徳島入団後わずか3か月で自己最速を2キロ更新する154キロを記録。間違いなく徳島入団が大きな転機となり、ホークス入団を勝ち取った。
ビールかけで味わった久々のアルコール。「飲んでいないですよ。浴びただけです」と笑顔を見せる。「テレビでしか見たことなかったので。今年途中から来て、まさかあの場にいられると思っていなかった。すごい良い経験になりました」。自らの胸に誓いを立て、挑んだ2026年シーズン。小林樹斗は見事に這い上がってみせた。「本当に奇跡の1年です」――。チームメートと味わった最高の美酒は忘れられない瞬間になった。
(森大樹 / Daiki Mori)