2024年オフに現役ドラフトでDeNAから移籍
2026年シーズン、ホークスは福岡移転後で初となるパ・リーグ3連覇を果たしました。鷹フルでは主力選手はもちろん、さまざまな角度からチームにスポットライトを当てて今季の戦いを振り返っていきます。上茶谷大河投手の“運命”を変えたのは、2024年オフの現役ドラフト。古巣への「申し訳なさ」、そして反骨心を原動力に、ホークスで腕を振ってきました。右腕が明かしたのは、渡邉陸捕手とのやり取り。5試合でバッテリーを組んだ“相棒”へ、伝えた言葉は「早く上がってこい」――。
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ホークスとDeNAが激突した2024年の日本シリーズ。40人の登録メンバーから外れた上茶谷は、一足早くオフに突入していた。古巣にとっては7年ぶりの頂上決戦。勝敗が決した11月3日の第6戦、右腕は家族とともにディズニーランドにいた。「スプラッシュマウンテンにでも並んでいたんじゃないですか」。そう笑って振り返る。園内を歩きながら、スマートフォンを開いてはネット速報を確認していた。
苦楽をともにしたチームメートが、日本一を掴み取り喜んでいる。その姿は純粋に嬉しかったが、歓喜の輪の中に自分はいない。「そこに関しての嬉しさはなかったですね」。誰でも参加できたビールかけにも姿を見せなかった。同年のレギュラーシーズンは18試合登板にとどまるなど、貢献できなかった自分が不甲斐なかった。
2018年ドラフトで1位指名を受けて、DeNAに入団した。6年間でキャリアハイは1年目の7勝。ファンがささやく「期待外れ」という言葉は、しっかりと耳に届いていた。ここに右腕の原動力がある。8勝を挙げて3連覇に貢献した今シーズンの途中、古巣への偽りのない思いを明かしていた。申し訳なさ、反骨心、そして渡邉陸の存在――。マウンド上では鬼気迫る表情でボールを投げ込んできた上茶谷の“1年間”に迫った。
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この先で分かる3つのこと
「僕のせい」渡邉陸の2軍降格に上茶谷大河が抱く自責の念
「早く上がってこい」上茶谷大河が相棒・渡邉陸に送った言葉
近藤健介から投げかけられた一言…上茶谷大河が背負う責任感
「申し訳なさ」は反骨心へ…右腕の唯一無二の原動力
「僕は横浜で何もしていないんです。ドラ1で入って、やたら打たれただけ。マジで申し訳ない気持ちしかないです。今年の6月も横浜で投げましたけど(6月7日のDeNA戦)、歓声をもらうのもおこがましい。日本シリーズも投げていない、そもそもメンバーにすら入っていない。そんな(歓声をもらうような)選手ですらなかったし、ほんまに迷惑しかかけていなかったです」
あまりにも痛々しい言葉だった。運命を変えたのは、2024年12月9日に行われた現役ドラフト。ホークスが新天地に決まり、右腕の胸にはふつふつと燃え上がってくる思いがあった。「絶対に見返したんねん」――。野球人生を変えるなら、もうここしかない。たった一つ、絶対に譲れない信念を胸に刻み込んで、上茶谷大河は横浜から福岡にやってきた。
今季はオープン戦から好調を維持して、リリーフとして開幕1軍入り。7月から先発に転向すると、8勝を挙げて3連覇に貢献した。忘れられないのは、8月15日の楽天戦(みずほPayPayドーム)。7回6失点で今季初黒星を喫すると、バッテリーを組んできた渡邉とともに登録抹消となった。上茶谷の登板日は背番号00がマスクを被る。「運命共同体」とすら表現した、頼りになる相棒だ。
右腕はその後も1軍で登板機会を得たが、渡邉は2軍調整が続いている。“コンビ”として首脳陣から与えられてきたチャンス。相棒の「人生」を動かしてしまったことが、ただ悔しかった。
「もちろん、人それぞれの結果や決断、未来に責任を取れるのは自分以外にいないんですけど。あの楽天戦に関しては、陸自身がコントロールできないところだったと思うんです。ホームランまで打っていたし、キャッチャーとしてのミスがあったわけではないので。陸がやってきた準備に対して、僕が応えられなかった。“僕のせい”です。自分の結果で陸の運命を捻じ曲げてしまった可能性はあるので。そこに関しては、僕も辛かったです」
週に1回の出番。渡邉がルーティンとして、自身の出場が予想される日の相手先発をイメージして「トラジェクトアーク」を打ち続ける姿は、右腕も目にしていた。「毎試合、ちゃんと相手の話もしていたし、とにかく勝つために1週間コミュニケーションを取り続けていました」。限られた機会を生かそうと、死に物狂いで努力する後輩の思いに応えたかった。
だからこそ、上茶谷の肩にのしかかる責任感も重くなる。降板後にもロッカーで試合を振り返った2人。右腕が打ち明けた言葉に、渡邉への思いが滲んだ。
「正直、次の登板では一緒に上がれると思っていました」――。
登録抹消を経て、8月27日のロッテ戦(ZOZOマリン)で先発マウンドに戻ってきた上茶谷。バッテリーを組んだのは山本祐大捕手だった。「陸からも『僕は上がるかわからないです。何も言われていないので、上がらないかもしれないです』とは言われていました。それも僕のせいというか……。週1回、運用されるキャッチャーの責任まで背負って投げないといけないなと思いました」。誰かの思いを胸にマウンドに立つ。1人の男として、悔しさを味わった。
上茶谷大河から渡邉陸に送ったLINE
「早く上がってこいよ」――。1軍昇格を果たせなかった相棒に、思いを込めてLINEを送った。渡邉の返事は「頑張ります」。別々の地で再出発を切った2人だけで交わした“誓い”。背番号00は、上茶谷とバッテリーを組んだ5試合から何を得たのか。伝えたい思いはただ一つ。心からの感謝だった。
「かみちゃさんが抑えてくれたから次、また次とチャンスをもらえた。毎試合抑えないといけないのはわかっていましたし、1試合でも良くない結果になれば抹消になる……。実際になって『やっぱりそうか』という思いはありました。でも、かみちゃさんもコンさん(近藤健介)から『お前が抑えないと陸が出られねえからな』と言われていたので。僕よりも責任を感じているかもしれないです」
そして「シーズンの最後まで、責任を持ってバッテリーを組みたかったのが正直なところですけど……。お互いの考え、意見がいい方向にいって、共同作業ができていたと思います」と言葉を続けた。目の前の一瞬に全てをかけてきた2人。渡邉もまた、上茶谷への感謝は尽きない。バッテリーで掴んだ3つの白星も、3連覇に大きく貢献したはずだ。
2024年、ディズニーランドから眺めた古巣の日本一。上茶谷にとって自らが貢献して、初めて味わう喜びの瞬間だ。「僕のことなんてどうでもいい。優勝、優勝ですよ。チームのことが一番大切なので」。相棒のため、そして何より自分自身のため――。覚悟を決めて、野球人生を大きく変えた。上茶谷大河が抱いていた“反骨心”は、福岡の地で歓喜へと形を変えた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)