斉藤和巳2軍監督が寄せた鷹フル独占手記
ホークス2軍は16日、ファーム・リーグ西地区優勝を飾りました。2024年の4軍監督、2025年の3軍監督を経て、今シーズンから2軍監督に就任した斉藤和巳監督。初めて2軍で指揮を執った1年で何を感じ、何を得たのかーー。鷹フル独占手記をお届けします。
「正直、1年間で貫いたことなんて何もないよ」。斉藤監督が噛み締めた自らの力不足と指導者としての思い。大山凌投手が流した涙に口にした「何も思わない」の真意とは。そして中村晃内野手が見せたプロの姿勢——。若鷹と過ごした日々で感じた葛藤、様々な思いが交錯した1年間を振り返ります。
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ファーム・リーグ西地区の優勝を飾ることができました。今シーズン、タマスタ筑後をはじめ、球場に足を運んで若い選手たちに温かい声援を送り続けてくださったファンの皆さん、本当にありがとうございました。その声が選手たちの背中を押してくれたのは間違いありません。まずは監督として、心から感謝を伝えたいです。
1年を振り返れば、記憶に残った場面はいくつかある。6月17日のオリックス戦。5月末に2軍に落ちてきた大山が、この日も3ランを打たれた。試合後、室内練習場に行くと奥で涙を流しながらシャドーピッチングをしていた。普段明るいあいつが、あんなふうに泣く姿を見せるのは珍しいことだった。でも「涙を見て、どう思うか?」と聞かれたら、冷たく聞こえるかもしれないけど、俺は「何も思わない」って答える。
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この先で分かる3つのこと
涙の投手へ伝えた「泥臭く一筋の光を掴む重要性」
12四球の翌日に語った「打たれてもブレない覚悟」
斉藤監督の胸を打った「中村晃が見せたプロの姿」
これまで何人もの涙を見てきたけど、その涙を次に流したくないなら「やれよ」と思う。涙を流すってことは、まだまだやらないといけない、できてない状況に自分を持って行ってしまったわけだから。ファームでもいろんなやつの涙を見てきた。でも厳しい言い方かもしれんけど、「別にそこじゃないよ」って。
俺はそういう人間だから。悔しさを噛み締めて、歯を食いしばって、前を向いて、泥臭く踏ん張って。そうやって「一つの成功」を掴み取った瞬間にグッとくるものがある。それが不器用であっても、やっぱり一生懸命やっている人が好きやから。自分のためでも、周りのためでも。頑張ったから、その結果が出たんやと。一生懸命に前を向く人間の姿にこそ、心を揺さぶられる。
あの時の大山もそう。年齢的な焦り、養うべき家族の存在、プロとして結果が出ない悔しさ……。さまざまな思いが一気に溢れ出したんだと思う。実はあいつがホークスに入団してきた時のウエルカムパーティーで、たまたま同じテーブルだった。それ以来ずっと見てきて、個人的にもちょっと思い入れのある選手でもあるので。だから「どんな感じかな」と思って話しかけに行った。でも、やっぱり大事なのは悔しい思いをした後やから。
今年、預かった選手たちの姿を見て何度も思った。自分の中で頑張っているかもしれんけど、そんなもんじゃないよと思うことも、もちろんある。でもあいつらなりに頑張って、ピッチャーだったら良い投球が続いたり、野手なら良い判断やプレーができたり。その瞬間は「そうそう。頑張ったから、そうやってご褒美がくるんやぞ。頑張って耐えたから、そういうことができるようになるんやぞ」って心の中では思っていた。
ただ、たった一度の成功で満足しちゃダメ。「これが当たり前になっていかなあかんのや」っていう葛藤もあった。指導者として心の中では喜びつつも、すぐにまた背中を押さなければならない。期待が膨らむ分、次の試合でまた元に戻っていたり、それが続かないと正直しんどい。「また戻ったか……」って。裏切られたわけではないけど。それに近いくらいのしんどさ、悔しさはやっぱりあった。それが指導者の難しさに繋がっているんだと思う。
12四球の翌日…ミーティングで投手陣へかけた言葉
もちろん若手は失敗をするよ。だからここにいるわけで。6月5日、練習前の投手ミーティングで「ちょっといいか?」と話をしたことがあった。前日のビジターでの阪神戦。投手陣が12四球を出して、試合にも負けた。そこでは別に説教をしたわけじゃない。元ピッチャーとして、俺だってそういうこともあったし、苦しい気持ちもよく分かる。
どんな状況に対しても、大切なのは泥臭く準備を重ねること。だから、この表現がいいのかはわからへんけど、みんなのためを思って伝えた。「そりゃフォアボールは出すよ。1軍のピッチャーだって四球はあるし、連続で出すことだってある。だからフォアボール自体はいい。ただ、出したら死ぬ気で抑えろ」。
他の指導者の方とは考え方が違うかもしれないけど、野球は点を取り合うゲームだから。最終的に相手をホームに返さなきゃいい。ゼロで抑える、あるいは最小失点で抑えるということをやり続けていけば、そういう強い気持ちを持ち続けていれば、自ずと色んなことに気付けると思うから。たとえ3人連続でランナーを出したとしても、0点でベンチに帰ってくる可能性はいくらでもある。そういうマウンドでのマインドが大切だと思うから。
中村晃の姿に「やっぱりこういうことだよなって」
正直に言ってしまえば、この1年間で「これを貫き通した」と言えるような大層なものなんて、何ひとつなかった。試合に勝つに越したことはないし、結果として形になれば、一見それが「正解」のように見える。だけど球団にとって、そして選手たちの将来にとって本当に正解だったのかどうかは、また全く別の話であって。そのあたりの難しさも感じた1年だった。
一番大切なのは、あくまで「1軍」。1軍が勝ち続けていくための戦力を底上げすること。そして、将来のチームを支える選手を育てること。そう考えた時、このファームでの優勝が1軍戦力の底上げや未来に直結しているかと問われれば、俺はそうは思わない。自分自身の力不足を含めて、「対選手、対1軍、対球団」すべてにおいて、自分の甘さを突きつけられた、自問自答の連続だった。
でも、このシーズンの中で目に深く焼き付いて離れない光景がある。試合に出ていない時でも、晃がベンチでずっと声を出し続けてくれたっていうのは印象深い。2軍にいた期間は晃にとって決して本意な時間ではなかったと思う。それでも晃は、試合に出ていない時でも、ベンチの最前線で声を出し続けてくれた。「声を出す」ということ自体は、文字にすれば至極当たり前のことに聞こえるかもしれない。だけど、それをどれだけの選手が「無意識に」「継続して」やり続けられるか。1軍の舞台を含めても、それができる人間は本当にごくわずかだから。
打った、抑えた、守った、走った——。目に見える結果よりも、やっぱり根本的なところを理解しているからこそ、晃はそれができるんやなって。当たり前のことを当たり前に、勝つためにやり続ける。他の出来事がすべてかき消されてしまうほど、あの姿は俺の心に強く残っている。指導者として、若い選手たちに一番理解してほしいのは、まさにそういう「姿勢」なんだと思う。「やっぱり、こういうことだよな」って、その姿を見て思わされた。
プロは結果の世界。どれだけ素晴らしい姿勢を持っていようと、最終的には結果を残さなければ生き残れない。だけど、その結果を「残し続ける」ためには泥臭く、根本的なところを大事にして、当たり前のことを無意識にできるようにならなきゃいけない。日常の練習から、俺は選手たちとそういう話ばかりをしている。人間だから失敗なんていくらでもするし、若い選手が失敗するのは当たり前。それでも大事なのは、失敗の先にある根本の意識なんだと思う。
(森大樹 / Daiki Mori)