8回1死満塁のピンチを連続三振
マウンド上で剥き出しになった気迫が、ブルペンで待つ男たちの胸を激しく揺さぶった。上沢直之投手と、日本ハム・達投手の先発で始まった2日の日本ハム戦(エスコンフィールド)は白熱の投手戦が繰り広げられた。1-1の同点となって迎えた8回に上沢が背負った1死満塁の大ピンチは、単なる勝敗の分かれ目にとどまらず、チームの思いをひとつにした。
「もう満塁になったら腹をくくるしかないので。色々考えながら投げていましたけど、良い結果になってよかったです」
打線が土壇場で追いついた直後のイニング。「同点にしてもらった後だったので、点を与えたくないという気持ちでした」と振り返る背番号10の覚悟。ワンバウンドになるフォークを必死に止める山本祐大捕手の姿に応えるように、鬼気迫る表情で腕を振り抜いた。2者連続三振でこのピンチを切り抜けた瞬間に、マウンドで上げた雄叫びは、レフトスタンドにあるブルペンで待機する中継ぎ陣へも伝播していった。杉山一樹投手はその瞬間をこう振り返る。
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この先で分かる3つのこと
勝ち星を消した杉山からの謝罪に上沢が返した言葉
12回を無失点の杉山の胸を打ったエースの気迫と本音
敗戦の危機を救いブルペン陣をひとつにしたバトンの重み
「上沢さんはけっこう感情を出すので気持ちが伝わってきやすいんです」
上沢の前回登板にあたる8月26日のロッテ戦。背番号40は2点リードの9回に登板するも、痛恨の同点打を浴びて上沢の勝ち星を消してしまっていた。
その翌日には杉山から謝罪の言葉があったというが、上沢は「何なら僕が1失点なり無失点に抑えていたら、ああいう展開にはならなかったと思う。もし『スギが悪い』という話になるなら、僕だって悪い。だから、謝る必要はないんです」と語っていた。
この日は上沢に勝ち投手の権利はなかったが、当然、杉山としても“その日の思い”はあっただろう。そして、さらに気持ちを昂らせたのが、上沢が8回に見せた気迫だった。「1アウト満塁からの三振はしびれました。僕らは1イニングなので、絶対に抑えないといけないという気持ちにさせてくれました」と本音を明かす。背番号40はきっちりと3人で締め、役目を果たした。
ブルペンが感じた思い
両先発がともに8回123球10奪三振という素晴らしい内容の投手戦。手に汗を握る緊張感の中で、力を振り絞りながらも上沢が奪った三振に、胸を高鳴らせたのは杉山だけではないだろう。上沢が必死に繋いだバトンの重み。9回からは松本裕樹投手、津森宥紀投手、ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手が登板し、1点奪われれば負けという展開の中で、相手打線を封じ込める好投を披露した。ヘルナンデスにいたっては、最速159キロをマークするほどだった。
日本ハム投手陣を前に2安打しか放てなかった中、土壇場の8回に同点に追いついた打線も、上沢に負けをつけまいという思いがあったはずだ。「結局1-1で引き分けなので」と試合後に淡々とした口調で語った上沢。マウンドでの気迫が仲間の心に火をつけ、一丸となって引き寄せた価値ある引き分けだった。8月12日から白星は遠ざかっているが、エースの背中が語るものはあまりにも大きい。
(飯田航平 / Kohei Iida)