キャリアハイの72安打、コーチも口にした「この人すごいな」
充実した表情で口にしたのは、苦しみを味わった男の本音だった。正木智也外野手は9日、西武戦(ベルーナドーム)の第4打席で、この日3本目となる中前打を放った。今季72本目の安打。2024年に記録した71安打を超え、キャリアハイを更新した。
5年目の今季は、開幕直前に右足の蜂窩織炎による手術を受けたことで出遅れた。それでも5月15日に1軍昇格を果たすと、63試合に出場して打率.283、16本塁打、40打点を記録。復帰戦を除く62試合で1番打者を務め、恐怖のリードオフマンとして首位を走るチームを牽引している。
昨季は4月18日の西武戦で左肩を亜脱臼し、長期のリハビリ生活を余儀なくされた。8月20日に屋外でのフリー打撃を再開したが、昨年のこの時期は投手を相手にしたバッティングすらできていなかった。今の自分の姿を、“あの時”は想像できていたのか。そして1年前のリハビリ期間、コーチを驚かせたひと言には今年ブレークした理由が詰まっていたーー。
会員になると続きをご覧いただけます
この先で分かる3つのこと
リハビリ中に正木がコーチを驚かせた「意外な相談」とは
正木本人が成長を実感した復帰戦での「衝撃アーチ」とは
怪我で諦めかけた「シーズン目標」への決意と覚悟とは
「活躍するために練習をしてきたので。1年前は想像できなかった、とは言いたくないですね。その自信はありました。でも怪我もあったので。そういう意味では、自分でも頑張っているのかなと思います」
正木は決して立ち止まらなかった。リハビリ期間でも見据えていたのは紛れもなく、1軍で活躍する「未来の姿」だった。昨夏、両手打ちの制限付きでバッティング練習が解禁された直後のこと。正木が筑後の室内練習場で声をかけたのは、菊池拓斗R&Dグループスキルコーチだった。菊池コーチも当時のことを「はっきりと覚えている」と明かす。
「リハビリを続けてきて、やっと制限付きでバットを振れるようになった2日目くらいの時です。『こういうことがやりたいんですけど、そのためのドリルを教えてください』って言われて。もう復帰した後に、自分が打つビジョンを持ちながら、新しいことに取り組もうとしているんだと思って。『この選手はそういう人なんだな。すごいな』と思ったのを覚えています」
教わったことを何度も反復し、リハビリ期間、秋季練習でも黙々とバットを振り続けた。菊池コーチも「彼は1回教えたことを『もういいんじゃない?』って言うくらいずっと続けるんですよ。出来ないからどうしようじゃなくて、『この期間で何を積み上げて、出来るようにするか』を考えていたので」と、ネガティブな感情のない姿に驚いたという。
野球をできる喜び「楽しい気持ち」、成長を実感した1本のアーチ
正木が自らの成長を実感したのは、今季の復帰戦となった5月15日の楽天戦(楽天最強パーク)で放った今季1号だった。「最初の試合で打球速度が出たので。トレーニングの成果が出たなと思いますし、自信になって、そのまま乗っていけました」。左翼スタンドへ飛び込む打球速度182.2キロの衝撃弾。そして結果と共に感じているのは、何よりも野球ができる喜びだ。
「難しさもありますけど、楽しい気持ちの方が大きいですね。こうやって野球ができる、毎日1軍の試合に出られるのは嬉しいですし、楽しめています。キャリアハイの成績を目指していましたし、ホームランも超えて、打点、安打も超えたので。あとは突き進むだけかなと思います」
9日の試合前の時点で、8月は打率.172と苦しんでいた。「(数字が)落ちてきていた部分はありましたけど、ずっと試合に出ていたらこういうこともあるので。そこをどう乗り越えるかが一番大事だと思います。そういう意味では、今日打てた3本は大きかったですね」。出場試合を重ねる中で、キャリア初の規定打席到達も見えてきた。
「規定打席は元々、今シーズンの目標だったんですけど、怪我した時は『あ、もう無理だな……』と思ったんですけど、1番で出させてもらえていることで、到達できるチャンスも出てきたので」
目の前のワンプレーを全力でこなし、確固たるレギュラーの座を掴もうとしている。「このまましっかり活躍して、1番打者としてシーズンを終わりたいです」。常に高みを目指し、努力を続ける負けず嫌いな男。優しい顔に怖さを秘める26歳のバットが、今のホークスには欠かせない。
(森大樹 / Daiki Mori)