10勝目を挙げる1週間前…楽天戦で6回5失点
「本当に毎日が楽しいですし、幸せだなと思います」
ヒーローインタビューでマイクを向けられた21歳の声には興奮の色が残っていた。快挙を成し遂げてスポットライトを浴びる1週間前、前田悠伍投手は自らの“あり方”を問いただされていた。「気持ちを切らすなよ」――。首脳陣の目には“慢心”と映ったマウンドの姿。今の成績があるのは、誰よりも厳しく接してくれる存在があるからだ。
9日の西武戦(ベルーナドーム)、カード勝ち越しをかけて前田悠はマウンドに上がった。序盤から走者を背負ったものの、ピンチは広げない。無四球というリズムの良さでアウトを積み重ね、7回無失点。二塁すら踏ませないピッチングで無傷の10勝目を手に入れた。開幕10連勝は、球団では2005年の斉藤和巳2軍監督以来、21年ぶりの快挙となった。
「個人的には負けているので」
悔しさを隠すことなくそう語ったのは、1週間前だった。2日の楽天戦(楽天モバイル最強パーク)で先発した左腕は、6イニングを投げて今季最多の5失点。打線の大量援護に守られて9勝目を挙げたが、反省ばかりが残る登板だった。その試合後、前田悠を呼び出したのは倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)だった。隙を見せていたつもりはなかったが、“厳しい言葉”をかけられ、あらためて背筋を伸ばした。
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この先で分かる3つのこと
9勝目の裏で…倉野コーチが前田悠伍にかけた厳しい言葉
快挙の裏で見抜かれた…倉野コーチが痛感した投球の「軽さ」
2桁勝利も「通過点」前田悠が慢心を退け狙うさらなる高み
倉野信次コーチの言葉「このままだとやられちゃうよ」
「倉野さんから『もう1個詰めて行かないと、後半戦やられちゃうよ』という話はされました。確かに、と僕自身も思いましたし、1軍に慣れるのはいいことなんですけど、それが“慢心”になると『ズルズルいってしまう』というのは言われました。高校の時も西谷(浩一)先生から似たようなことを言われたこともあったので、なんだか思い出しましたね」
楽天戦で浴びた2被弾。平良のソロアーチは2ストライクから、マッカスカーの一発は初球だった。要所で“投げミス”をしないことが、左腕の真骨頂。不用意だった姿を、首脳陣は見逃さなかった。「ちょっと余裕は出てきたんですけど、低めに集めるとか、コースを間違えないというのは意識すればできることなので。『気持ちを切らすなよ』という話は、試合の後にされましたね」と前田悠。厳しい指摘を受け止め、決意を胸にまた準備を進めてきた。
雨天によってグラウンド状況も悪かった仙台での一戦。悪条件に理解を示しつつ、倉野コーチは左腕を呼び出した意図を明かした。
「簡単に言うと重みがなかった、すごく軽かったですね。(2被弾)以外のシーンでも重みを感じられなかったし、今まで見えていたものが見えなかった。もちろん天候もあったんですけど、僕としては上手くいきすぎてどこかぼやけている部分があるんじゃないかと思った。早めに気づかせてあげないとと思って、ゆっくり話をしましたね。『もう1回、気を引き締めよう』と」
今季2度目の登板だった5月10日のロッテ戦。5回のピンチを空振り三振で切り抜けた時、前田悠は「この1球で1軍か2軍かが決まると思った」と語っていた。強烈な危機感を胸に、自分のポジションを手にしてきたはず。気持ち的な余裕が生まれたとして、どんな登板でも“一戦必勝”で臨む大切さを思い出してもらいたかった。背番号41も「もう絶対に2軍には落ちたくないので。細かいところまで詰めていくことが自分のためになりますよね」と言い聞かせていた。
2桁勝利は“通過点”「僕はもっと上に行きたい」
千賀滉大投手(現メッツ)や武田翔太投手(現韓国・SSGランダース)ら、若くして1軍のマウンドに立つピッチャーを何人も見てきた倉野コーチ。前田悠の成長に目を細めると同時に、左腕の目標がまだまだ“先”にあることも知っている。
「僕が悠伍にいつも言うのは『この程度じゃ満足しないでしょう?』ということ。『もっと高いところを目指しているなら、そういう意識で臨んでいこうよ』という話は常にしています。いいパフォーマンスを続けていくこと。そういう意味でも、楽天戦では痛い目に遭うかなという兆候を感じたので。今が限界じゃないし、もっともっと高みを目指してもらいたいですね」
シーズン10勝。投手なら誰もが到達したい2桁勝利を叶え、前田悠は言った。「プロに入ってきた時の目標の1つでしたけど、今となっては意識していないですね。今年だけで考えればいいかもしれないですけど、ここで満足したら“それ以上”がない。僕はもっと上に行きたいので」。向上心はとどまるところを知らない。周囲も力強く背中を押してくれる。あとは自分自身が妥協なき準備と努力を続けていくだけだ。
「僕はまだ“1番”にはなれていないので。そうなるためには、やるしかないですね」。どんな時も、高い目標が自分の人生を作り上げてきた。1軍で野球ができて「幸せ」という気持ちを、これから先も絶対に忘れない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)