漁府輝羽を支える斉藤和巳の“言葉”
ホークスの将来を担う育成選手に焦点を当てた新コーナー「未来の推し鷹」。今回はフルスイングが光る2年目の大砲候補、漁府輝羽外野手が登場します。1年目の昨季は非公式戦でチームトップの105試合に出場するも、6本塁打、打率.156、127三振と確実性に大きな課題を残しました。しかし今季はここまで非公式戦で早くも2本塁打を放ち、2軍も経験。成長した姿を見せています。23歳の中で一体何が変わったのか――。裏側にあった心境の変化と、指揮官の言葉に迫ります。
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東北福祉大では公式戦でわずか4打席とチャンスに恵まれなかった一方で、オープン戦では10本塁打を記録。自慢の長打力にポテンシャルを見出され、2024年育成10位でホークス入りした。1年目は「三振を気にするな」というチーム方針の下、豪快にバットを振り続けた。しかし積み上がったのは三振の山。プロの壁にぶち当たり、自分を見失いかけた。漁府にとっては長く悔しい2025年だった。
「自分自身、もっと打てるだろうなと思って入団したんですけど、それであの成績だったので。これじゃ勝負できるわけがないというか。もし自分が1軍でホームランを20本打っている選手で、あの三振数があるのならいいんですけど……。悔しくて、ずっとモヤモヤしていました」
結果を求め、フォームが崩れる打席も少なくなかった。転機となったのは昨シーズンの終盤。3軍は8月末から9月上旬にかけて、関東遠征に出ていた。思い悩んでいたある日の夜。ホテルの自室に戻ると、フロントからの電話が鳴った。受話器を取ると、声の主は当時3軍を率いていた斉藤和巳2軍監督だった。
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この先で分かる3つのこと
斉藤監督の部屋で漁府を救った「1時間の対話」
大砲候補がどん底で気づいた「思考のベクトル」
三振を恐れた男が、オフの猛練習で「拘ったこと」
「ちょっと話そう」
思いもよらぬ形で訪れた突然のコンタクト。当然、漁府も驚きを隠せなかった。「最初はフロントからの連絡だと思いました」。斉藤監督から呼び出され、指揮官の部屋で晩酌を交わすことになった。膝を突き合わせた“特別な1時間”。そこでかけられた言葉は、不安を抱えていたメンタル面で考え方や気持ちを大きく変えるものだった。
「一喜一憂しすぎや。ヒットが打てなかったから『ダメだ』じゃなくていい。その1球がストライクでも、まだ2球ある。1打席目、2打席目で打てなくても、3打席目で打てば3割バッターやぞ。良いバッターでも3割なんだから、1打席ごとにしっかりと切り替えよう」
「三振は気にするな」というチームの方針を信じながらも、結果が出ない自分自身へのモヤモヤは決して消えなかった。一喜一憂してしまう打席が増えていた中、指揮官から気持ちをコントロールし、考え方を変えることの大切さを伝えられた。
「あの日はすごく覚えていますね。もうどうすればいいのかわからなくなっていた時期で、その言葉をいただいたので。結局、打席の中では一人。自分の人生なので、自分がどう捉えてどう動くかが大事だなと思ったんです」。自分だけでは気づけなかった“プロの思考”。数字を出すためには取り組みはもちろん、心構えが重要なんだと痛感した瞬間だった。
「『打てないからダメ』じゃなくて、しっかり向き合ってくれていることが伝わってきたので。和巳さんの経験も聞かせてもらいましたし、自分のことを思って言ってくれているんだな、と。それがすごく嬉しかったです」
1年目は127三振も…オフの取り組みで「消したくなかった」もの
昨年の冬から春季キャンプにかけて、本塁打を狙うだけではなく、効率良く打球を飛ばすことにフォーカスした。「ただ振るだけじゃなくて、バットの軌道、間(ま)の取り方、イチから全部を見直したので、だいぶフォームも変わりました」。オフシーズンのタマスタ筑後。誰よりも遅くまでバットを振り、室内練習場には漁府一人の打球音が響き渡っていた。
「三振を減らすためにコンタクト率を上げるんじゃなくて、『コンタクト率がないと長打は増えない』という考えでオフから過ごしてきました。結局、僕に求められるのは長打だと思うので、そこは消したくなかったんです。いいポイントとスイングで打てば、そんなに力を入れなくても(打球が)飛ぶのもわかったので」
今季は非公式戦で一時は打率3割に迫るなど、確かな手応えを感じている。今の心を支えているのは、味わってきた悔しさと、指揮官がくれた優しい言葉だ。「1年目のあの結果だけで終わるのは絶対に嫌だと思ったので。あれだけ振らせてもらった分、成長した姿を見せたいという思いもありました」。シーズンに入ってからは多くの時間を3軍で過ごしているが、筑後で顔を合わせれば斉藤監督に声をかけられるという。離れていても“見てくれている”ことは、十分に伝わってくる。
「3軍は毎日の振り返りレポートがあるんですけど、和巳さんがお風呂で会った時とかも『毎日見ているぞ。良い感じだな』と言ってくれるので。しっかり結果を出せば、絶対に喜んでくれると思うので。周りの人への恩返しにもなるように、これからも頑張っていきたいです」
5月には2軍戦出場も経験。ヒットこそ出なかったが、貴重な時間を過ごした。19日からは3軍の韓国遠征に参加。日本を飛び立つ前、こう力強く宣言した。「ホームラン、打ちますよ」。澄み切った表情は自信に満ちている。そこにはもう、下を向いて思い悩む姿はどこにもなかった。
(森大樹 / Daiki Mori)