移籍後初アーチ「違った感情は確かにあった」
電撃トレードでの移籍から10日。背負っていたものが溢れ出たような魂の“雄叫び”だった。「プロ初ホームランと似ているというか、いつもとちょっと違った感情は確かにありました」。興奮が残る表情で、移籍後初アーチを振り返ったのは山本祐大捕手だ。
22日にみずほPayPayドームで行われた日本ハム戦。初回と2回に1点ずつを奪ったが、その後は膠着した展開が続いていた。迎えた7回1死、山本祐が打席へ。達のスライダーを捉え、左翼スタンドへ叩き込んだ。一歩一歩を噛み締めるようにダイヤモンドを一周。小久保裕紀監督にも「今日の勝因」と言わしめる貴重な一発は、忘れられない瞬間として胸に刻み込まれた。
印象的だったのは、山本祐が一塁を回ったところで雄叫びをあげたことだ。「え、見ていましたか? 嬉しかったんだと思います」と照れ笑いを浮かべる。トレードが発表されたのは12日のこと。ホークスの一員となってから、まだ10日しか経過していない。激変した日常と、背負う重圧。27歳の叫びには一体、どんな感情が込められていたのか――。真っ先に口にしたのが、家族の存在だ。
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この先で分かる3つのこと
一塁を回って“雄叫び”…初アーチに込めた感情
孤独な生活と眠れぬ夜「自分に負けそうな時」
「僕が来たことで出られなくなった選手がいる」
家族と離れ離れの単身生活「慣れるのはまだ全然」
「(重圧や負担というのは)少なからずあるんじゃないかなとは思います。僕だけじゃなくて家族にも迷惑というか、バタバタさせてしまっているので。安心させるためにも、そういう1本になったのならよかったと思います。毎日こういう活躍ができるわけじゃないですけど、明日も試合があるので。積み重ねていけたら、家族も安心してくれるのかなと思います」
現在、家族とは離れ離れで、福岡ではホテル生活を送っている。スタメンマスクの機会も増えているが「慣れるのはまだ全然で、寂しいですよ。家じゃないのも落ち着かないですし、まだまだバタバタしています」と本音をもらした。新天地で頑張る姿を見せて、少しでも家族を安心させてあげたい――。山本祐を突き動かす最大のモチベーションだ。
「自分に負けそうな時ほど、そういう考え方で(プレー)しているのかなと思います」
日常が急変したことで、生活にも変化が生まれている。DeNA時代には野球日本代表「侍ジャパン」に選出されるなど、捕手として数多くの経験を積んだ。「アドレナリンが出ても、試合が終わればすぐに寝られる。寝るのに困ったことはなかったです」と振り返るが、現在については“眠りが浅い”ような日々が続いているという。「どこかで気を遣ったりして、気疲れしているのかな。これも貴重な体験です」。結果が全ての世界。初アーチとチームの勝利は、何よりも安心材料になったはずだ。
山本祐大がプロとして語った信念、責任、矜持
ホークス戦士として立ったヒーローインタビュー。みずほPayPayドームの景色に「トレードで来た時も、すごく温かい声をかけていただいたので、感謝しています」と頭を下げた。その言葉の真意についても「お客さんの反応もそうですし、(移籍が決まって)妻がなんか『応援してもらっているね』と。そういうコメントがあることを教えてくれたので、それで知ったというか。温かいですよね」。福岡の野球ファンの“熱”を身をもって感じられる、そんな初アーチとなった。
この日、先発・前田純投手とは初バッテリーだった。「僕はそんな頭がいいわけではないので、ちゃんとアウトプットしていますよ」。投手の特徴や、自身が感じたことはノートに書き出す。ホークス投手陣との経験がまだまだ浅くても、絶対に準備を欠かさないのは山本祐の信念だ。雄叫びとなって溢れ出たのは、抱えていた重圧と責任感。そこには、27歳が背負うプロとしての“矜持”が宿っていた。
「当たり前のことだと思うんですけど、試合に出ている以上は責任を感じてやらないといけない。僕が来たことで出られなくなっている選手も絶対にいますし、『なんだこいつ』とは思われないように。自分が逆だったら、もしかしたら嫌かもしれないので、そういう姿は見せないように。だから、一生懸命やるのは当然かなと」
試合後に行われた囲み取材の時点では、初ホームランの記念球は手元に届いていなかった。「強いていうなら、今日は親父と妹の誕生日なので。もらったら渡そうかなと思います」。チームを勝たせたという結果が、何よりも家族孝行になったはずだ。背負っているものが大きいからこそ、山本祐大の全力プレーに目を奪われる。熱い気持ちがストレートに伝わってくる魂の雄叫びだった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)